第28話 飲み会
「あの子に育成スキルを? ……それはまた大仕事を頼まれたわね」
仕事終わり。
俺はサラを誘って学園街にあるあの食堂へとやってきた。
――で、早々にシモンズ先生からの依頼内容を話し、サラの目から見たアデレートという女子生徒の情報を得ようとしたのだが……なんとも微妙な反応が返ってきた。
「シ、シモンズ先生の話では生徒自身に問題行動などはないって話だったのだが……」
「確かに……手のかからない子よ」
と、言う割には表情が冴えないサラ。
恐らく、「手のかからない子」という部分はシモンズ先生から聞いた通りなのだろうが……問題は、やはり彼女も持つ特異な属性か。
ただ、どうやらそれだけじゃないみたいだ。
「あの子をひと言でたとえるなら――『不思議』かしらね」
「不思議……それはまたどうして?」
「言葉で表現するのはちょっと難しいわね」
「えぇ……」
なんだか、めちゃくちゃ心配になってきたな。サラから情報を聞いて、自分なりに対策を練ろうと思っていたのだが、逆に不安が増す結果となってしまった。
現実として、サラをはじめとする学園の教師陣でもどう対応していいのか試行錯誤を繰り返しているらしいから、俺の関与はダメもとみたいなのがあるんだろうな。
そう思うと、ちょっとだけ気楽にはなったよ。
アデレートに関する直接的な情報がないのなら、次にアプローチするのはダンジョン探索演習について。
これについては毎年恒例行事ということもあって、詳しい話が聞けた。
「この学園の北側に国が管理しているダンジョンがあるの。一般の冒険者が立ち入れない、学園専用のダンジョンよ」
「学園専用とはまた豪勢だな」
ダンジョンを中心に町をつくれば、それで経済に活気が出る。大半の国ではそれを見越して新規ダンジョン探しに余念がないのだが……カルドア王国は他の産業も発展しているし、その心配はいらないのだろうな。
「今年の二年生は例年より人数が少ないけど、レオン・アスベルやミアン・ローランズといった名家出身の子は多い方だから引率の数を増やしたいって思惑もあったんでしょうね」
「なるほどね」
まさに俺はうってつけの人材だったというわけか。
俺としても、リゲルがクラスに馴染めているかどうか気にはなっていたし、それを確認するいい機会にもなるな。
「それに、ダンジョンとは言っても規模はかなり小さいし、出てくるモンスターも最低ランクばかり。普段は学園の関係者が常駐して管理しているし、安全面の配慮はバッチリよ」
「ふむ。ダンジョン側には問題なし、か」
学園の中でもエリート層が多い二年生が、学園の外で活動をする――これを好機と見て、よからぬ企みを持つ者がいるかもしれないと危惧していたが、そっち方面の心配は杞憂に終わったようだ。
毎年恒例ということは過去に何度もやっているようだし、その辺は大丈夫そうだな。
俺の不安が解消されると、話題はガラッと変わった。
「ねぇ……今朝の新聞見た?」
「っ! あぁ……」
かつて、ともに所属していた冒険者パーティー【星鯨】の大失態。
大々的に報じられているあのニュース……目に入らないわけないか。
「あの記事にどこまで信憑性があるかは分からないけど……正直、ついにやらかしたかって感じね」
「まあ、あれくらいのことはしでかしてもおかしくはない状態だったな」
追放された俺はともかく、サラはリーダーであるブリングや幹部たちのやり方に反発してパーティーを抜けた。当然の感想と言えるだろう。
「あなたがいなくなってからのパーティーがどういう状況にあったか……手に取るように分かるわね。大方、収入が減ってきたから一発逆転を狙って大物に手を出したんでしょうけど、見事裏目に出た形になった、と」
「対策をしっかり講じていなかったようだし、無謀な挑戦だったようだな。きちんと準備をしておけば、きっと討伐は成功していたはずだ」
「なんていうか……絵に描いたような驕りっぷりだったものねぇ。自分たちだけで強くなったような顔をしていたけど、それはあなたの育成スキルがあってこそ。他人を見下し、勘違いした者も哀れな末路だわ」
パーティーを離れて数年経つが、未だにサラはブリングたちのことをよく思っていないようだった。
……それもそうか。
むしろ、綺麗サッパリ忘れて暮らすという方が無理かもしれない。それくらい理不尽で目に余る言動の数々だったからな。古い付き合いじゃなければ、俺も早くに見限っていたかもしれない。
「あいつら……これからどうすると思う?」
「一度失った信用を取り戻すのは大変だし、コツコツと真面目にやるしかないだろうな。――もっとも、あのブリングがそういった殊勝な心掛けを持つとは思えないけど」
「同感ね」
俺もサラも、【星鯨】の再生は難しいのではないかと読んでいた。
それに……きっとブリングならきっとこう考えるはずだ――「次はもっと大物を狙って挽回してやる!」と。
それが原因でさらにドツボへとハマっていくとは気づかずに。
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