第26話 依頼
片眼鏡を装着し、柔らかな物腰のシモンズ学年主任。
いかにも仕事ができそうな人だけど……この人がわざわざ管理小屋へ足を運んだ理由とは一体何だろうか。
とりあえず、詳しい話を聞くため小屋の中へと案内する。
狭い場所ではあるが、外で立ち話を続けるよりはイスに座ってコーヒーでも飲みながらの方がいいだろうからな。
諸々の準備をしてから、改めてシモンズ先生の話を聞く。
「実は、毎年この時期になると二年生にはある恒例行事がありましてな」
「恒例行事?」
学園では季節に応じてさまざまなイベントを開催しているとサラから聞いている。ただ楽しむだけでなく、社会に出た際の集団行動がしっかりできるようにするためのものらしい。
「どういったものなんですか?」
「内容は至ってシンプルですよ。――ダンジョン探索演習です」
「えぇっ!?」
思わず大声を出してしまった。
学園の生徒たちがダンジョン探索……ま、まあ、剣術や魔法を身につけるために日々頑張っている子どもたちが、その成果を実戦で発揮するにはもってこいの場所と言える。
「対モンスターを想定した訓練の一環として、毎年行われています」
「な、なるほど……」
闘技場での鍛錬――あれも実戦を意識して行われているのだろうが、あそこは対戦相手が人間に限定されている。
生徒たちが学園を卒業してからどのような進路を取るかは不明だが、きっと多くの者はモンスターと対峙する場面のある職場に勤めることとなるだろう。
その際、いきなりモンスターと戦うのはリスクが大きいので慣らしておく授業をやるってわけか。
これは冒険者にも同じことが言える。
ピンキリではあるが、モンスター討伐は採集クエストなどに比べると高額報酬を得られるのが相場だ。これはどのギルドでも同じだろう。
そうなると、やはり冒険者の多くはモンスター討伐に乗りだす。
だが、モンスターの種類はとても多く、中には猛毒を持っていたり、腕や足を切断しても頭を潰さなければ再生し続けたりと、それぞれに異なった特徴を持っている。
だから、最初は経験豊富なベテラン冒険者に引っ付き、情報収集をしながら徐々に慣れていくのがお決まりとなっていた。もちろん、独学で対応していく者もいるが、そちらの方はどうしても経験不足によって危機に陥りやすく、リスクも高い。
そう考えると、学園のダンジョン探索演習というのは的を射た授業と言えるだろう。
ただ問題は……経験のない学生たちが無事にやり遂げられるのかという点だ。
「狙いは理解できますが、なかなかリスキーですよね?」
「当然、安全への配慮は万全を期します。――本題はここからなのですが、今年はぜひあなたにも参加していただきたいのです」
「お、俺が!?」
ダンジョンの話が出てきた辺りから薄々そうじゃないかと思い始めてはいたが……まさか本当に引率のお願いだったとは。
「サラ先生の話ですと、あなたは育成スキルを持ち、著名な冒険者パーティーに所属していた際には若手育成に尽力されていたとか」
「そ、それはそうですが……」
「ダンジョンにも精通していらっしゃるようですし、ぜひともお力を借りたいなと」
「は、はあ……」
ここまで言われたら、俺としても協力をしたいと思うが……どうやら、シモンズ先生が俺に引率として参加してほしいと持ちかけた理由は他にもあるみたいだ。
「それで……可能ならば、あなたの育成スキルで見てもらいたい生徒がひとりいるのです」
「見てもらいたい生徒ですか?」
恐らく、サラからフィナの件が伝わっているのだろうな。学園長からも育成スキルを生かしてほしいとは言われていたので、その依頼には応えたいと思う。
問題は――その生徒というのが誰なのかという点だ。
「それで、どういう生徒なんですか?」
「アデレートという女子生徒なのですが……彼女は非常に珍しい属性を持つ魔法使いなのです」
珍しい属性持ち、か。
魔法使いといえば炎とか水とか、自然界の力を扱う者が大半だが、中にはそれ以外の属性を診断される者がいる。
そのアデレートという女子生徒は一体どんな魔法を使うのだろうか。
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