第24話 新しい年

 春の長期休校が終了し、いよいよ今日から学園生活が始まる。

 ある意味、今日からが管理人としての初日ってことだな。


 生徒たちはそれぞれの寮で朝食と身支度を整えると、教室へ向かうために学生寮から出てくる。さすがは王立魔剣学園というべきか、俺が掃き掃除をしていると誰もが元気よく朝の挨拶をし、眩しいほどの笑顔を向けてくれた。


 教育が行き届いているってことなのかな。

 冒険者たちの朝はあんなに爽やかじゃないし。


 しばらくすると、学生寮周辺はシンと静まり返った。すべての学生が校舎へと移動しきったのだろう。ちょうどそれくらいの時間に、俺の朝の業務も大体やり終えた。


 さて、ここからはリゲルの様子をチェックだ。

 制服の準備だったり、書類のチェックだったりでまだ入学できていないが、スミス副学園長との実戦形式で行われた編入試験に合格し、権利を得ることはできた。


 ……だが、気がかりなのはレオン・アスベルの存在だ。


 厳密に言えば、彼だけじゃない。

 編入試験が終わってから、多くの学生はリゲルの活躍をたたえてくれた。いくらハンデがあったとはいえ、スミス学園長の実力を知らない者はいない。だからこそ、そんな副学園長を相手に条件をクリアしたリゲルを認めてくれたのだ。


 しかし、それはすべての学生に当てはまることではなかった。

 中にはレオンのように反感を持つ者もいる。

 その気持ちは……分からないでもない。


 入学自体がかなり難しい王立魔剣学園において、実戦形式のみの試験で合格というのは異例の事態と言ってよかった。


 とはいえ、実力ではスミス副学園長も褒めてくれていたし、提示された条件自体はクリアしているため、リゲルに落ち度はない。

 それでも消化しきれぬ思いがレオンにはあるのだろう。学園関係者はリゲルの高い能力を見抜いてスカウトしたようなものだが……ともかく、彼が学園でうまくやっていけるように、俺としても全力でサポートしていくつもりだ。


 サポートといっても、育成スキルで可能な強化はすでにやっている。

 あとリゲルに必要なのは……学園で生活していくための基礎学力と礼儀作法か。


 現在、彼は俺の管理小屋にてその勉強を行っていた。


「う~ん……」


 唸りながら本を読むリゲル。

 ギルドでクエストをこなすためにも文字の読み書きは必須だったため、それについては問題ない。それでも、さすがに学園で使用される教科書の内容を理解するには早すぎたか。


「苦戦しているようだな」

「あっ、師匠……なかなか難しいですね」


 珍しく弱音を吐くリゲル。

 それでも、彼は教科書を手放さなかった。

 意外――と言っては失礼だが、正直こういうのは投げだしてしまうかもしれないと危惧していた。何せ、これまでは毒のある山菜の見分け方とかトラップの見破り方とか、そういう冒険者として欠かせない知識を得る勉強はしてきたが、この手の勉強についてはまったく手つかずだったからだ。


しかし、リゲルには学習しようという意欲があった。

 理由について多くは語らなかったが……恐らく、ミアンさんとの出会いが彼の心境を大きく変えたと思われる。


「あの、師匠」

「うん?」

「ここについて質問があるのですが」

「どれどれ」


 リゲルがヤル気になっているのはいいことだ。

 学園に行ってもうまくやっていけるよう、俺に教えられるものについては可能な限り叩き込んでおかないとな。

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