第23話 勝敗

 スミス副学園長はリゲルの攻撃を受け、手にしていた剣を手放してしまった。

 これで、当初の合格目標であった「副学園長に一撃を打ち込む」は見事に達成。リゲルは王立学園へ編入する権利を得たのだった。


 闘技場に詰めかけた学生たちも、最初は困惑していた。歓声よりもどよめきが強く、本当に副学園長が負けたのかと信じがたい様子。


 だが、当の副学園長が改めてリゲルの勝利を宣言したところでようやく拍手が起こり、リゲルの頑張りを讃える声が相次いだ。


 リゲルの入学は確定となったわけだが……本当に大丈夫かな?

 ただ、王立魔剣学園ならば、彼の才能はさらに伸びていくだろうと確信していた。熱心な先生も多いし、何よりリゲル自身が学園で学ぶことを熱望しており、勝利が決まった瞬間には小さくガッツポーズをしていたくらいだからな。


 ……もしかしたら、リゲルの中で学園の存在が変わりつつあるのかもしれない。

 最初は俺のところで暮らすというのが目的で編入試験を受けたけど、ミアンさんのことや同年代の学生たちと交流をする中で、真剣にここでいろいろと学んでみたいと思うようになったんじゃないかな。


 本人としては実感がなさそうだけど、それも学園生活をしていくうちにきっと気づいていくだろう。


 俺とサラ、そしてラドルフのふたりと一匹は、戦いを終えたリゲルを出迎え、彼を闘技場内にある選手控室へと案内する。

 ここでしばらく休憩をしてから戻ろうとしたのだが、その前に副学園長に挨拶をして来ようと思い、サラとラドルフにリゲルを任せて廊下に出る。

 副学園長を捜してしばらく歩いていると、


「納得できません!」


 突然、怒鳴り声が聞こえた。

 何事かと声のした方向へと進んでいくと、そこには捜していた副学園長の姿が。どうやらさっき怒鳴ったのは彼の前にいる男子生徒らしい。

 男子生徒は全員で三人いる。

 恐らく、立ち位置からして真ん中にいる金髪の少年がリーダー格なのだろう。雰囲気からして、平民ではなさそうだ。名のある貴族のご子息か?


 ……もう少し、話を聞いてみよう。


「何をそんなに興奮している、レオン・アスベル」


 どうやら、怒っている少年の名前はレオンというらしい。

 それにしても……アスベル……どこかで聞いたことがあるな。

 やはり名のある家の生まれか。


「手加減をしていたとはいえ、あなたほどの御方があのような得体の知れない冒険者崩れの子どもに一撃を食らうなどあり得ないと言っているのです」


 ず、随分とハッキリという子だなぁ。

 とはいえ、スミス副学園長から稽古をつけてもらっていて、尚且つリゲルの素質を知らない人から見ると、出来レースに映ってしまうのは仕方がないのかもしれない。


「この私が八百長をしたとでも?」

「そうは言っていません。しかし、勝った相手がこの学園に相応しい者であるかどうかは疑問符がつきます」

「なら、あんたが俺と戦ってみるか?」


 ふたりの会話に割って入ったのは――なんとリゲル本人だった。


「それなら納得するだろう?」

「っ!? の、望むところだ!」

「よさんか!」

 

 スミス副学園長の迫力ある怒鳴りに、さすがのふたりも硬直。

 ……いや、大人の俺でもあれはビビるぞ。


「決定に変更はない。すでにこの件は学園長も認めくださっている」

「が、学園長が……?」

「当然だ。これからは同学年のライバルとして切磋琢磨していくのだな」


 それだけ告げて、スミス副学園長はその場を去っていく――と、最後にこちらへ視線を向けられた。……俺の存在に気づいていたのか。

 ならば、もう隠れている必要もないだろう。


「リゲル」

「師匠!」

「師匠?」


 声をかけるとすぐに反応するリゲルと、それに気づいてこちらへと視線を送るレオン・アスベル。


「あなたは確か……新しい寮の管理人でしたね」

「そ、そうなんだ。明日からよろしくお願いするよ」


 俺に対してもきちんと敬語で接するところを見ると、圧はあるが礼儀正しい子だというのが分かる。

 その後、取り巻きだったふたりの男子生徒とも軽く自己紹介。

 こちらも話せば素直でいい子だった。


 ――で、この時の会話で発覚したのだが、レオン・アスベルはカルドア王国騎士団長の息子さんだったのだ。どうりで真面目というか融通が利かないというか……ともかく、絵に描いたような武人気質は父親譲りらしいな。


「では、俺はこれで」

「あ、ああ」


 頭を下げ、ふたりの友人とともに去っていくレオン。

 それにしても……騎士団長の息子とはなぁ。


 今後何も起こらなければよいのだがと危惧していたら、


「あっ! ここにいた! 急にいなくなるから心配したわよ!」


 サラとラドルフが合流。

 どうやら、リゲルは黙って出てきたみたいだな。



 その後、入学に向けた手続きを行うため、俺とサラも同行して学園の事務係のもとへと向かう。

 制服や教科書の用意などが必要になるため、本格的に授業へ参加するのはもうちょっとだけ先になりそうだという話だったので、その間に俺やサラで教えられる限りの情報を伝えていくつもりだ。

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