第13話 再接触

 食事を終えた後、サラに案内されて向かったのはフィナが自主鍛錬を行っているとされる合同演習場。


 そこでは情報通り、フィナが魔法の鍛錬をしている真っ最中だった。

 遠巻きにその様子を眺めているのだが……やはり、彼女が使っているのは風魔法のようだ。


 彼女が本来の属性である炎魔法を使わない理由――それは、戦火を生き延びた過去の記憶によるもの。

恐らく、風が好きという点についても嘘ではないのだろう。食堂でサラから聞いた話によれば、フィナの住んでいた村はのどかな田舎町だったらしく、町のいたるところに風車が建てられていたという。


 風魔法へのこだわりは、そんな故郷の風を思い出すためでもあるのだろうな。

 俺は一度サラと顔を合わせ、タイミングを見計らいながらフィナへと声をかける。


「こんばんは」

「えっ? あ、あなたは昼間の……それにサラ先生まで」


 俺たちが揃って現れたことで、フィナは困惑している様子だった。

 昼間はうっかり彼女の暗い記憶に触れてしまったため、警戒をされているようだが……それでも、彼女には本来の力を発揮してほしいと俺は思っていた。


 本来ならば長期の休校で遊びたいところをわざわざ学園に残り、しかも消灯時間ギリギリまで自主鍛錬をしている――そういう努力を積み重ねてきている彼女が、このまま報われずに終わるというのは我慢ならなかった。


「前にも言いましたけど、私は風魔法を必ず習得してみせます」


 真っ直ぐこちらを見つめながら言い放つ彼女へ、俺はある提案を持ちかけた。


「君の覚悟は昼間の時点で十分伝わった。――けど、こういうのはどうかな?」

「な、なんでしょうか」

「炎属性も風属性も両方習得してしまえばいいんだよ」

「なっ!?」


 俺からの提案を受けたフィナは目を見開いて驚く。ちなみに、横に立つサラには先ほど食堂でこの提案について意見を求めており、事前に知っていたということで冷静な態度を保っていた。


「そ、そんなことが……」

「フィナ……あなたにならきっとできるわ」

「俺も手伝うしな」

「手伝うって……」

「育成スキルがあれば、炎属性に対する君の苦手意識を取り除けるはずだ」

「い、育成スキル……」


 聞き慣れないスキルに戸惑うフィナ。

 学園での生活が長い彼女には、そもそもスキルという存在そのものがピンと来ていないのだろう。ここに通う生徒たちは基本的に魔法と剣術、それから政治や経済、歴史について学ぶとされている。

 

 どんな力を持ったスキルを授かるのは運次第なので、そういう不確かな力に頼らないというのがこの学園の理念だとサラは教えてくれた。

 

 まあ、これほど立派な学習環境があればそういう考えに至るのも理解できる。

 しかし、幼い頃からこうした恵まれた環境下で育っていない者が大多数を占める冒険者業界では魔法の習得は難しいし、剣術も我流がほとんど。

 だから、環境に左右されずに得られるスキルは重宝されるのだ。


「とりあえず――よっと」


 俺はスキルを発動し、育成対象をフィナに設定する。

 彼女が抱えている炎への苦手意識……まずはこいつをどうにかするのが先決だな。


 しばらくすると、俺は右の手の平をフィナの方へ向ける。

 直後、「ボッ!」という音を立てて炎が出現した。


「っ!? か、管理人さん、あなた魔法が使えたの!?」


 いきなりの出来事に取り乱すフィナ。

とりあえず、俺はスキルの効果について説明する。


「これは魔力によって生みだされたものじゃないんだ」

「「えぇっ!?」」

 

 同時に声をあげるふたり。

 ここからがこのスキルの見せどころだ。

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