第14話 壁を乗り越えて

 魔法が使えないはずの俺が、こうして自在に炎を生みだしている――その事実に、フィナは驚きを隠せない様子だった。

 一方、【星鯨】に在籍していた頃から俺の育成スキルを目の当たりにしてきているサラは何事もなかったかのようにフィナへと話しかけた。


「これが彼の持つ育成スキルの力よ」

「ど、どういうことですか?」

「俺自身は何もできない――けど、育成対象者に対しては、鍛錬や克服という名目でさまざまなことが可能になるんだ」


 ただ、あくまでも鍛錬が目的であるため、戦闘に生かせないというのが実に惜しい。こいつを自由に扱えるようになれば、それこそ全属性魔法使いなんていうのも実現できそうなものなのだが……まあ、俺はそういう大層な肩書に関心がないのでやらないけど。

 

「う、うぅ……」


 サラと俺の説明を受けて、事態を把握したフィナであったが……あの感じだと炎に対する苦手意識は相当なものだな。そもそも得意なヤツなんていないのだろうけど、身動きが取れないほどの恐怖心を抱いているとするなら、属性に関係なく、魔法使いとして致命的と言わざるを得ない。


 俺は手の平に浮かぶ小さな炎をフィナへと近づける。

 こちらが一歩近づくと、フィナは一歩後退――しかし、やがてこのまま逃げていても埒があかないと察したのか、


「い、いきます!」


 フィナは決意を口にすると、小さな炎を両手で包み込んだ。

 スキルによって生みだされた炎に熱はない。

 あくまでも「炎っぽい」というだけでまったくの別物だ。

 もちろん、これを手にしただけでは克服とは呼べない。

 ――やがて、フィナは炎に導かれるようにして、掴んでいる両手を胸に当てた。


「あ、あぁ……」


 その炎は少しずつフィナの体内へと吸い込まれていく。そして、すべてがなくなると、突然フィナは魔力を放出。

 

「な、なんですか、これは……」


 これまでにない未知なる感覚に怯えさえ見られるフィナであったが、しばらくすると、


「い、今なら!」


 意を決し、フィナは全身からほとばしる魔力を炎へと変えた。

 すると、まるで夜空を貫かんばかりの勢いで巨大な火柱が発生。


「こ、こいつは……」


 想定を遥かに超えている。

 適性があるのは分かっていたけど、ここまでとは。

 さらに驚かされたのがフィナの反応だった。

 もともと炎に対してかなりの苦手意識があったため、いきなりあれほどの火柱が発生したらひどく取り乱すものだと思っていたが、彼女は冷静に魔力を調整し、炎の威力を小さくしていった。


 特に動揺することなく、適切に炎を扱える……これは、本人が炎属性だからというのもあるのだろうが、それと同じくらい天性の資質を感じさせた。


「す、凄い……凄いわ、フィナ!」


 炎を自在に操れているフィナに対し、サラは喜びのあまり声をあげて彼女へと駆け寄る。


 当のフィナ自身も、自分が炎を扱えているという事実に戸惑うような表情や仕草を見せていたが、次第に現実として受け入れ始めたのか、笑みがこぼれた。


「どうだい? 炎魔法はこれからも使えそうかな?」

「は、はい! ありがとうございました!」


 サラから少し遅れて俺が声をかけると、フィナは物凄い勢いで頭を下げる。

 とりあえず……俺の初仕事は成功でいいのかな?

 ここから先――技術的な指導はサラたち本職の方にお任せするとしよう。

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