第12話 もう一度会う前に
職員紹介は思っていた以上にあっさりと終わった。
というより、事前に各職員へ連絡が行き渡っていたらしく、本当に軽い感じで終わった。まあ、俺は職員じゃなくて寮の管理人だから、直接かかわることは少ないのでこれくらいの反応が普通なのかもしれない。
ただ、これまでの管理人とは違い、俺が【星鯨】という冒険者パーティーで若手育成に従事していたという点に関心を持つ人が多かった。
正直、「管理人風情があまりでしゃばるなよ」というオーラを出す職員がいても不思議じゃないと思っていたが、彼らは好意的に迎え入れてくれた。
挨拶自体は簡易的なものであったが、「必要とされている」という実感が湧いてくる。
おまけに、近いうちに歓迎会を開いてくれるらしい。
改めて、ここへ来てよかったと思えるよ。
挨拶が終わると、俺はサラに案内されて学園街へとやってくる。
夜が迫る時間帯ではあるが、昼間と大差ない活気に包まれていた。
場所が場所だけに、夜になればなるほど人は減っていくのだと思ったが、まったくその気配はない。その賑わいぶりは大都市に匹敵する。
「賑やかだな」
「私も初めてここに来た時はビックリしたわ。王立の学園が近いから、もっとお堅い感じだと思っていたんだけど、意外に遅くまでお店やっているのよね」
その辺は学園で働く教職員への配慮だろうな。仕事終わりに街で一杯やろうかってノリで来られる距離――実際、俺やサラはそんな感じでやってきたわけだし。
ちなみに、今回は前に約束した通り、これまでのお礼も兼ねて、俺の奢りってことになっている。
「オススメのお店はこっちよ」
学園にいた時よりも少しテンションが高く、足取りも軽い。こうして見ると、昔ちょっと明るくなったかな。以前の彼女も決して暗い性格ではなかったが、今はもっと生き生きしている――という表現が正しいかな。
「何よ、ニヤニヤして……私何か変なこと言ったかしら?」
「いや……楽しそうだなと思って」
「えっ? ――そうね。とても充実しているわ。もちろん、冒険者としての日々も楽しかったし、それでしか味わえない経験や感動もあったけど……こっちはこっちでまた違った喜びがあるから」
そう語ったサラは照れ臭そうに笑う。
……きっと、心からの本音なんだろうな。
育成者としてパーティーにかかわっている時は楽しかった。日に日に成長していく新米冒険者たちを見守り、彼らがダンジョン探索で活躍して俺のもとに笑顔で報告する――それが一番嬉しかった。
きっと、サラも俺と同じことに喜びを感じているのだろう。
しばらくふたりで学園街を歩き、やがてサラがオススメする食堂へ到着。
そこは中央通りの喧騒から少し離れた位置にある路地裏の一角――外観はなかなかいい雰囲気を漂わせている。
これが普通の都市部なら、女性がひとりで歩くのに勇気がいるだろう。だが、ここは厳しいチェックを受けてようやく入ることが許される場所。だからこそ、サラもこの店に気兼ねなく足を運べるのだろう。
店に入ると、カウンターにいる店主と思われるスキンヘッドの偉丈夫が声をかけてきた。
「おや? 今日は彼氏と一緒かい、サラ先生」
「ち、違いますよ! こちらは同僚で新しい寮の管理人なんです!」
「管理人? ……そういえば、あそこで働いていた爺さんは結構な高齢だったなぁ」
「本人はヤル気満々だったんですけど、腰を悪くしちゃって……残りの人生は近くにある生まれ故郷の村へ戻ってのんびり野菜を育てるそうです」
なんでもない世間話で盛り上がるサラと店主。
こりゃ相当通い慣れているな。
空いた席に通された俺たちは、とりあえず酒を注文――しようとしたのだが、これからまたフィナに会う予定なのでキャンセル。代わりに、料理はサラが特にオススメだという品を見繕ってくれた。
数分後。
テーブルの上に並ぶ数々の料理。
この地方の郷土料理と呼べばいいのか、あまり見かけないものばかりだな。
果実ジュースで乾杯をした後、一番大きなお皿に乗っている肉のトマト煮っぽい料理に手を付ける。その味は――
「うっま!」
「でしょう? 店長の腕がいいのよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、サラ先生!」
サラに褒められて、めちゃくちゃ嬉しそうな店長。
しかし……こいつはお世辞抜きでうまい。
これまでに食べたことのない、酸味のある味付けだが、これがなかなかクセになる。こうなってくると、他の料理を食べるのも楽しみだ。
「こっちの魚料理もおいしいわよ」
「おっ! いいね!」
オススメ料理に舌鼓を打ちながら、学園街で迎える初めての夜を満喫した。
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