第11話 嫌な思い出を乗り越えて

 本来は炎属性なのに、なぜか風魔法を習得しようとしている学園の女子生徒――フィナ。

 その原因を知るために質問をしてみたが、先に反応したのはサラの方だった。


「そういえば……あなたは……」


 どうやら、フィナが抱えている悩みに心当たりがあるらしい。

 だが、すぐにそれを口にしないところを見るに……あまり人前では言えない内容っぽいな。


「わ、私が風魔法を使うのは風が好きだからです! 失礼します!」


 フィナは慌てふためきながらその場を足早に去っていく。取り残された俺とサラは顔を見合わせて同時にため息をついた。


「ごめんなさい。軽率だったわ……」

「いや、逆に彼女が炎魔法を使わない明確な理由が分かったよ。――で、さっき何を言いかけていたんだ?」

「……ルーシャスはファダム王国って知っている?」

「ファダム? ――あぁ、確か数年前から内戦状態が続いているっていう……まさか、彼女はあそこの出身なのか?」


 現在は入国ができなくなっているので詳細な国内の状況については把握しきれないが、よくなったって話は聞かないし、サラの様子を見る限りでは俺の知る状況から進展はしていないのだろうな。


「ファダムから逃げてきたというわけか」

「今よりもずっと小さい時にね。それから必死に勉強や鍛錬に励んでこの学園に入ったのだけど……あの頃の凄惨な記憶がせっかくの努力を台無しにしていたなんて……それに気づけなかった私は教師失格ね」


 ひどく落ち込むサラ。

 ……相変わらずの性格だな。昔と変わっていなくては安心した半面、ちょっと心配にもなってくる。

 その辺はフィナ自身も虚偽の報告をしていたわけなので気にする必要はないと思う。それを伝えると、サラは少しだけ元気を取り戻した。


 さて……そうなると彼女の成長には苦い記憶を乗り越える精神力が必要になってくる。

 けど、あの様子ではこのままではダメだと気づいていながらも、どうやって解決したらよいのか、その糸口さえつかめていないようだ。


 しかし――俺の持つ育成スキルならばそれを実現させられる。

 なんとかして、もう一度彼女と接触できないだろうか。


 サラに尋ねてみると、


「なら、夕食後にもう一度ここへ来るといいわ。彼女は寮の門限ギリギリまで自主鍛錬をやっているみたいだから」


 有力な情報を提供してくれた。


「でも、彼女の炎嫌いを克服させられるの? 筋金入りって感じだったけど……」

「育成スキルにできるのはあくまでもサポートまで。最終的には自分自身で乗り越えなくちゃいけないんだよ。なんでもかんでも克服できるほど万能なわけじゃないんだ」

「なるほどね」


 納得してもらったところで、とりあえずフィナの件はここまでかな。

 あとは夕食後にもう一度ここへ来て、彼女と話をしてみよう。


「そういえば、職員会議はもう終わっているかな?」

「っ! そ、そうね。今からならすべての職員に会えるはずよ」


 思い出したように手をパンと叩きながら言うサラ。

 ……さては忘れているな?


 気を取り直して、時間が来るまで今の俺がやれる範囲の仕事をこなしていくとするかな。

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