第10話 偽りの属性

 ミアン様とフィナの最後の戦い――結果はミアン様の圧勝だった。

 いやぁ……あれは無理だよ。

 むしろ真っ向から怯むことなく突っ込んでいったフィナの度胸が凄い。まあ、実戦を想定しているとはいえ、あくまでも形式上なので実際に戦う緊張感とは違うのだろうが……だとしても、あの勇気は立派なものだ。


 それだけの度胸がありながら、肝心な部分がズレている――彼女の魔法属性だ。

 闘技場では風属性の魔法を使っていたが、俺の育成スキルで分析したところ、明らかに彼女には適さない属性だった。

 魔法使いを目指しているというなら、フィナはどこかで自分に合った属性を調べたはず。それでもあえて風属性を使っているというなら……そこには何か理由があるはずだ。


 俺とサラはその理由を知るため、自主鍛錬に励んでいるフィナのもとを訪ねた。

 先ほどの闘技場での実戦形式鍛錬だが、現在は休校中のため自主的に参加するものらしく、午前中には切り上げる者がほとんどらしい。


 だが、フィナは違った。

 場所を変えて、今も風魔法の完全習得に向けて頑張っているという。


 そんな彼女が鍛錬している場所は、闘技場から少し離れた場所にある。そこは周辺に木々もなく開けており、普段は合同演習場として使われるらしい。


「こんにちは、フィナ」

「っ!? サ、サラ先生!?」


 突然の訪問に驚くフィナ。

 見開かれた瞳は、やがてサラの横に立つ俺へと向けられる。


「あ、あの、そちらは……?」

「紹介するわ。今度から新しく学生寮の管理人をしてくれるルーシャスよ」

「よろしく」

「ど、どうも」


 なんだか警戒されている気がするけど……まあ、急に新しい管理人だと言われても反応に困るか。

 それより、俺は早速本題へと移る。


「さっきの闘技場での戦いを視させてもらったよ」

「……ひどい有り様だったでしょう?」


 俯きながら、フィナはそうこぼした。

 自覚はしているが改善点が見つからないといったところか。

 そういえば……俺が駆けだしの冒険者たちを育成スキルで鍛えていた時も似たような子を何人か見かけたな。同期に才能豊かな者がいると、自分が何をやってもその人には敵わないのではないかと思い込み、やがて努力すらしなくなっていく。


 闘技場での戦い――両者の間には確かにそう易々とは越えられない高い壁を見た。

 しかし、絶対にそれを乗り越えられないかと問われたら、俺は首を横へ振るだろう。


 もし、彼女が本気でミアン・ローレンズに勝ちたいというなら……まず改善すべきは自身の魔法属性だ。


「単刀直入に聞かせてもらうが、なぜ君は本来の属性魔法で戦わない?」

「えっ……?」


 俺の指摘を耳にしたフィナは、一瞬動きが完全に止まる――が、すぐにハッと我に返って反論を始めた。


「わ、私の魔法属性は風属性です。間違いありません」

「俺にその嘘は通じない。――そういうのを見抜けるスキルを持っているからな」

「なっ!?」


 さすがに俺がスキル持ちだとは思っていなかったようで、フィナの視線は忙しなくあっちへこっちへ泳ぎまくる。


「フィナ……彼の能力は本物よ。私はかつて彼と同じ仕事をしていた時期があったからよく分かるの」

「サ、サラ先生……」

「教えて、フィナ。あなたの本当の魔法属性を」

「…………」


 しばらく沈黙していたフィナであったが、観念したのか「分かりました」と小声で話し、深呼吸を挟んでから本当の属性を告げる。


「私の本当の魔法属性は……炎属性です」

「ほ、炎属性か……」


 それを聞いた俺の率直な感想は――拍子抜けだった。なぜなら、そこまで嫌になる要素が見当たらなかったからだ。元冒険者の立場からすると、炎魔法は全属性の中でも特に攻撃性が強いため重宝されるのである。


 ――しかし、自身が炎属性であることを告白した時のフィナの様子はどこか怖がっているようにも映った。

 こういうタイプも前職で見かけたな。

 確か、あの時は……


「フィナ」

「な、なんですか?」

「失礼を承知で尋ねるが、ひょっとして君は――炎に何か嫌な思い出でもあるのかい?」

「っ!?」


 物凄い勢いで顔をあげ、こちらを見つめるフィナ。

 ……どうやら、図星のようだな。

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