第9話 魔法属性

 サラに案内されて、俺は生徒たちが実戦形式の鍛錬を行う闘技場へと足を運んだ。

 そこでは公爵家のご令嬢であるミアン様が戦っていた。サラの情報によると、彼女の魔法使いとしての素質は同級生の中でも群を抜いているらしい。


 ――ただ、俺が気になったのはそのミアン様の対戦相手を務めた女子生徒だった。

 赤いショートカットに少しだけ吊り上がった目。歯を食いしばって立ち上がり、なおもミアン様に挑もうとする姿勢から、負けん気の強さがうかがえる。


「フィナさん。もう勝負はつきました」

「も、もう一度だけ……」

「……これで最後ですよ?」


 ため息を交えながら、ミアン様は魔力を高める――って、なんだこの魔力量は!?

 

「す、凄いな……」

「だからそう言ったでしょう?」

「い、いや、なんというか……想像を遥かに超越していたよ」


 いくら優れているとはいっても、そこはまだ十代半ばの学生。比較する基準は当然学生レベルになっていたが……これはもうそんなレベルじゃない。一流冒険者パーティーに所属する名うての魔法使いさえ足元に及ばないほどだ。


 ミアン様は魔力を雷に変える。

 ……なんてこった。

 常人を遥かに超える魔力量を有しているだけじゃなく、超激レアの雷属性持ちだったのか。


 これはいくらなんでも相手が悪い。フィナと呼ばれたあの女子生徒……何が何でも食らいついていこうとするその気概は大いに買うが、さすがに逆転勝ちは望み薄か。彼女とミアン様の間にある実力差は気持ちだけで乗り越えられるほど小さくないのだ。


 ――だが、それはあくまでも現段階での話。


 あのフィナという子はこれからきっと伸びる。

 なぜなら――彼女は大きなハンデを背負ってこの戦いに臨んでいたから。そのハンデこそが俺が抱いていた違和感の正体でもある。


「今度こそ!」


 フィナはミアン様の雷魔法に対抗すべく、同じく魔法を使う。 

 どうやらこちらは風属性らしい。 

 

「……やっぱりか」

「? 何か『やっぱり』なの?」


 不思議そうに尋ねてくるサラだが、あることに気づいて表情が一変する。


「あなた……育成スキルを使っているわね?」

「俺がここへ呼ばれた理由のひとつがそれだろう?」


 冒険者パーティー【星鯨】の現主要メンバーは、全員俺の育成スキルで強化されてきた。ここでは強化というより、生徒たちがどうしたら伸びていくのか――スキルを駆使してそれを分析するという役目も担っている。


 そんなわけで、育成スキルを使用してフィナという女子生徒を分析したのだが、ある事実が発覚する。


「彼女は魔法の属性診断を受けたのか?」

「え、えぇ、風属性だったわ」

「それは本当に正規の手続きにのっとって行われたものか?」

「ど、どういうこと?」


 顔を強張らせながら質問してくるサラだが……恐らく、大体なんのことかは理解できているはずだ。


「彼女の持つ魔法属性は風属性じゃない。本来の属性が何なのかまでは分からないが、少なくとも風魔法を会得するのには向いていない魔力の質をしている」

「そ、そんな……」


 これにはサラも驚きを隠せない様子だった。


「で、でも、それなら本人が真っ先に気づくはずじゃない? 適性以外の属性魔法を覚えようとすれば苦労するはずだし……」

「……これは俺の推察だが、恐らくあのフィナという子は気づいているんじゃないかな」

「き、気づいているって……風属性が自分に合っていないと知りながらその魔法を使い続けているというの?」

「あくまでも推察だけどな」


 しかし、そうとしか考えられなかった。

 サラの言うように、自分の属性に合わない魔法を覚えられないわけではないが、相当な苦労を強いられる。ましてや、成績が悪いと最悪退学なんてケースのある学園でそこまで意地になる必要性を感じられない。


 仮に、どうしても風属性の魔法が覚えたいのならば卒業してからでも十分間に合う。

 それでも彼女が頑なに風魔法へこだわる理由……それを突きとめなければ解決策を練られない。


「この後だけど……彼女と話をすることはできるかな?」

「問題ないと思うわ」

「よし」


 とりあえず、まずは会って話をしてみよう。

 まずはそこからスタートだ。





※次回からしばらくは毎日17:00投稿予定!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る