第4話 学園へ

 学園管理人に推薦された次の日。

 約束通り、サラは学園からの使者を引き連れて宿屋を訪ねてきた。


「準備はいいかしら?」

「あぁ」


 目の前には、かつてともにダンジョンで苦楽を共にしたサラが立っている――が、今はなんだか別人に見えるな。今はメガネをかけているとかって外見的な違いだけじゃなく、全体的な雰囲気が柔らかくなったような?

 


「? どうかした?」

「っ!? い、いや、なんでもないよ」

「そう? 馬車を外に待たせてあるから、行きましょう」

「お、おう」


 サラに案内され、俺は宿の外で待機していた馬車へと乗り込む。いつもは荷車みたいな馬車に乗っているのだが……こいつはまるでお屋敷の書斎みたいな気品ある造りをしている。


「す、凄いな……」

「学園所有の馬車よ。さあ、もっと奥へ詰めて」

「っと、すまない」


 サラに急かされて、俺は馬車の奥へと移動。

 やがてふたりの職員が乗り込み、残ったひとりは御者として前の座席に腰を下ろす。


 カルドア王都近くにあるという学園はかなり遠いようで、まだ朝霧が残り、市場も始まっていない時間帯だが、到着は夕方か夜になるらしい。


 長旅になるが、その間に学園の使者たちからいろいろと説明を受けたり、俺がここに至るまでの経緯を説明していくという。


 これは……なかなかハードな旅になりそうだ。



 馬車に揺られること数時間。


「見えたわ。あそこが学園よ」


 空が橙色に染まる頃、ついに王立魔剣学園がその姿を見せる。

 目の当たりにした第一印象は――


「な、なんだ、あれは……まるで要塞じゃないか!?」


 サラが学園だと指さした方向にあったのは、巨大な壁だった。それは円を描くように設置されており、外部からの侵入を防ぐ構造になっている。

 上空から入れそうなものだが……学園のちょうど真上辺りに不自然なほど大量の鳥が飛んでいる。恐らくあれは見張り用の使い魔だろう。


 しばらくすると、さらに驚くべき光景が出現した。

 壁の周りは堀になっており、石造りの橋が学園内部へと続く門へと伸びている。おまけにそこでは複数の武装した兵士によるチェックが行われるようだ。


「厳重だな……」

「学園内には貴族令嬢や子息も大勢通っているからね。これくらいは当然よ」

「なるほど。確かにな」


 昨日会った公爵家のご令嬢――ミアン様がいい例だな。

 もちろん、そのような高貴な育ちの者ばかりではないようだが、入学に関しては厳しい審査があるようで、そう簡単にはこの門をくぐれない仕組みとなっているらしい。


 兵士たちのチェックをクリアして門をくぐると、俺をさらなる衝撃が待ち構えていた。


「こ、ここが学園街か……」


 以前、サラが言っていた学園の敷地内にある街――それは高い壁を超えたすぐ先に存在していた。

 想定していた規模よりもずっと大きな街だ。

 それにかなり賑わっている。

 よく見ると、街の中心には運河が流れており、数隻の商船が確認できる。あれも厳しいチェックを乗り越えて入ることを許可されているのだろうな。


 街の喧騒に圧倒されている俺だが、ここでふとあることに気づく。


「あれ? 肝心の学園はどこなんだ?」


 周囲を見回してみても、それらしい建物は見えなかった――が、それよりももっと驚くべき物が視界に飛び込んでくる。


「ちょっと待ってくれ……あそこにも壁があるんだが?」


 高い壁を乗り越えて街へと足を踏み入れると、その先にはまた同じくらいの高さを誇る壁が存在していた。


「もしかして……あの壁の向こうに学園が?」

「ご明察。勘が鋭いわね」


 なんてこった。

二重の防壁に守られている学園か……俺の想像を遥かに超える職場環境だな。


「さあ、驚いている暇はないわよ。長距離移動で疲れているところ悪いんだけど、あなたにはこれからすぐに学園長に会ってもらうわ」

「えっ? が、学園長?」


 それってつまり、学園で一番偉い人ってことだよな?

 あんな要塞みたいな学園のトップ……なんか、とんでもない人が出てきそうだ。


「な、なんだか自信がなくなってきたよ……」

「今さら何を言っているのよ。ほら、馬車に乗って」


 壁を越えたというのに、また馬車に乗っての移動……うーん。感覚が麻痺しそうだ。

 想像を絶する規模だった学園に圧倒されながら、俺は学園長に会うべくもうひとつの壁に向かうのだった。




※次は18:00に投稿予定!

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