第5話 面接開始
広大な敷地面積を誇るカルドア王立魔剣学園。
ここだけでひとつの国ができるんじゃないかってくらいに広いし、街も活気があった。さらに、第二の壁に向かう途中で発見したのだが、なんと牧場や農園まである。すべてがここで賄えるレベルだ。
学園へ入るためには、最初の壁よりさらに厳しいチェックが必要となった。
それをクリアするといよいよ学園に足を入れる許可が下りる。
「ほぉ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
入ってきてまず俺たちを迎えてくれたのはだだっ広く、それでいてキチンと手入れの行き届いた庭園だった。赤や黄色や青といった色とりどりの鮮やかな花々が咲き誇り、見る者の心を癒してくれる。
「ここは生徒たちが管理している庭園よ」
「へぇ、それはたいしたものだ」
草花を愛でる趣味は持ち合わせていないものの、素人目から見ても丹精込めて手入れをしているのだなというのが伝わってくる場所だった。
「さあ、学園長室がある棟はこっちよ。ついてきて」
「あ、ああ」
サラに案内されて向かったのは、学園の東側にある校舎。
ここは教職員関連の教室が入っている。
学園長室はこの校舎の最上階にあるという。
階段をのぼってたどり着いた五階の角部屋――他の教室に比べて派手な装飾の施されたこのドアの向こうに、王立魔剣学園の学園長がいる。
これだけの規模の学園で頂点に立つ――きっととんでもない人物が待ち構えているんだろうなぁ。
そんなことを考えつつ、サラに続いて学園長室へと足を踏み入れる。
すると、
「あら、こんにちは。あなたがルーシャスさん?」
「えっ? あっ、は、はい」
「初めまして。学園長のキュセロよ」
「は、初めまして……よろしくお願いします」
思わず敬語で答えてしまうが……まさか、目の前にいるこの女性――いや、女の子が学園長だというのか?
ピンク色の髪をツインテールでまとめているこの子は、どう見ても十代前半に見える。もしかしたら、ひと桁の年齢かもしれない。確か、王立学園に通える年齢は十二歳からだから、生徒たちよりも幼いんじゃないか?
「ふ~ん……使い魔からの報告にあった通り、なかなかいい面構えをしているじゃない。あなたの冒険者時代の相棒だったわね?」
「相棒というか……まあ、確かに、一番コンビを組んだ中ではありますね」
言われてみればそうだな。
というか、サラ以外にコンビを組んでダンジョン探索をしたメンバーって、創設時のメンバーを除いてはいないかも。
サラの顔を見ながらそんなことを思い出しつつ、再び学園長へと視線を戻すと――
「あれ?」
さっきまで幼い少女の姿をしていたはずが、ちょっと目を話している間に老婆へと変わっていた。思わず目をこすると、それに気づいたサラが苦笑いを浮かべる。
「ごめんなさい。説明をしていなかったわね。――学園長には全部で十通り以上の顔が存在しているの。どれが素顔かは私にも分からないの」
耳打ちでそう伝えてくれたサラ。
年齢不詳な上に素顔が分からない学園長か……これも何か機密がらみなのか?
「ちなみに、私の姿がちょくちょく変わるのはただの趣味だからね」
「あっ、そうですか……」
……思っていたよりも面倒そうな人だな。まあ、王立学園のトップに立つとなったら、これくらいクセの強い人じゃなきゃ務まらないのかもしれないが。
「さて、自己紹介も終わったところで早速本題へ移りましょうか。サラからすでに話は聞いているとは思うが、あなたにはこの学園の生徒たちが暮らす寮の管理人をやってもらいたい」
「お、俺なんかでいいんですか?」
今の学園長の口ぶりでは、俺が管理人をやることがすでに決まっているようだが……冒険者パーティーを追放された俺なんかがやって大丈夫なのだろうか。
キュセロ学園長は、そんな俺の不安を見透かしたかのように微笑みながら続けた。
「あなたの過去についてはすでに調べがついているのよ。一流冒険者パーティーで若手の育成に尽力されていた、と。サラの話では、【星鯨】の今があるのはあなたのおかげとも報告を受けているわ」
「そ、それはさすがに――」
「大袈裟な話ではありませんよ、学園長。彼は奥ゆかしい性格だから自分の手柄にしたがらないだけです。人間性についても私が保証します」
追い打ちをかけるサラ。
なんかもう退路を防がれたって感じだな。
「あなたにはぜひその力をここで発揮してもらいたいの。ここにいる子たちがどうしたらもっと自分の理想に近づけるのか……いろいろとアドバイスをあげて頂戴」
「お、俺が……」
学園長の真剣な眼差しが俺を射抜き、動けないでいた。
そこへさらに畳みかけるがごとく学園長は話を続ける。
「では、最後にあなたからの返事を聞かせていただこうかしら」
「へ、返事ですか?」
「私たちはぜひともあなたにこの学園で働いてもらいたい。けど、最終的な判断を下すのはあなた自身。受けるもよし。拒否をして去るもよし。好きに選択してもらって構わないわ」
学園長とサラの視線が俺に突き刺さる。
――俺の答えは決まっていた。
「その話――お受けします」
「うむ! 期待しているぞ、慧眼を備えし育成者よ」
苦労も多そうだが、それに見合った報酬は受け取れそうだし。
戦闘力が乏しいので冒険者稼業から身を退こうとしていた俺には、これ以上ないくらいの再就職先だ。
こうして、俺は冒険者から学園寮の管理人へ転職。
第二の人生をスタートさせたのだった。
※本日ラストは20:00に投稿予定!
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