しょうらいのゆめ

「ねぇまま? まじょさんって、ほんとうにいるの?」

 あの頃の純粋な質問にお母さんは何を思ったんだろう。お母さんはあの時言葉を濁してはっきりと答えなかった気がする。なにせ幼稚園に通っているころの記憶だ。こんな断片でさえ憶えてるのが奇跡とも言えるかもしれない。お母さんもそんな昔の質問なんか覚えてないだろう。これが何か特別なことなら別だが、そんな大層な記憶なわけもない。ただただ私が寝かしつけられているだけの記憶だ。それじゃあなんで私はそんな記憶を覚えているのかというのはきっと魔女に関しての質問だからだろう。

 私はあの時から好奇心旺盛な子で、なにより本が好きだった。特に魔女の本だ。こんな小さなころは魔女が出てくる童話や絵本をお母さんに読んでもらっていた。

 私はあのころから変わっていない。あの童話や絵本を殆ど信じようとしなかった。魔女が登場する本では、大抵魔女は悪役のように描かれていた。「まじょさんはきっとやさしい」ってそう信じていた。自分が信じたいと思えるものしか信じたくなかった。だから……


――


 私は幼稚園で「しょうらいのゆめ」を書く機会があった。何になりたいか悩んだ末に「まじょさん」そう書いたのだが、隣にいた男の子が「まじょはわるいやつなんだ」ってそんな風なことを言っていた気がする。その後は私もムキになって言い合いになったようなことを憶えている。

 その後の夜も魔女の絵本を読んでもらっていた。絵本を読み終えて、もう寝ようとなったときに


「ままー? わたしもまじょさんになれるかなぁ」

「きくちゃんはまじょさんになりたいの?」

「うん、えほんみたいな」

「そっか、なれるといいね」


 この時、お母さんはどう思ったのだろう。20年経った今、憶えているんだろうか。こんな私だからきっと憶えているんだろうけど、私は……

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