夏の汗は人に伝う
「紬!昨日ごめんね…私あの時寝ちゃってたよね、紬は大変だったのに…」
朝学校にやってくると、紬より先に学校に向かっていた杏奈が扉を開けると立っていた。
「うんん、全然大丈夫」
それから紬と杏奈は昨日話せなかった分、大量の会話を交わした。ジャンルはすべてが全然違っていて全てが二人の楽しい気持ちを迎えさせた。
放課後には紬は叶羽に会いに行きために屋上に向かった。
そこにはいつものように叶羽の姿があって、紬の姿を見れば微笑んで手をふった。
「紬さん、昨日はあれから大丈夫でしたか?」
「えぇ、けどなぜ貴方がそれを知っているの?」
「私は学校の目を持ってますから、それくらい把握できますよ」
「…」
叶羽は嬉しそうにそう言って笑ったが、紬は一度黙り込んで一度叶羽から視線を外した。
「どうかされましたか?」
心配そうに叶羽は紬の顔を覗き、尋ねる。
紬はごくりと唾を飲み、口を開く。
「最近気づいたのだけど、叶羽達のような幽霊には一人一人違う特別な能力を持っているってわかり始めたの」
「そうなのですか?では私は目、つまり視力の能力ってわけですか」
興味深そうな顔で理解を進めた。さすがの叶羽、理解がはやくて紬からすると助かる。
「うん、そうだと思うの。他に私が出会ってきた幽霊達にも特定の物に触れられることが出来たりする子とかもいた。そしてもしかしたらそれが未練解消への鍵になるんじゃないかと私は予測している」
「………」
「だからそれで――」
「私のこと、気にかけてくれたんですね、でも、いいですって前にも話しましたよ」
「え、でも…」
「私は未練なんてきっとなかったんですよ」
「……」
叶羽は切ないその姿を紬の瞳に映らせた。
まるでこっちが泣きたくなるほどにまで心を揺らされてしまうかような感情だった。
そして紬は悟った。彼女は未練がないんじゃなくて、未練がわからないだけでそれを諦めきっていることを。
「紬さん、私はもう大丈夫です。だから、未練ではないお願いをさせてほしいんです」
「何?」
「紬さんともっとお話がしたいです」
叶羽は満面の笑みで微笑み、口元に手を被せた。
その姿はまるで絵にかいたような芸術作品でつい紬は見惚れてしまった。
今日も屋上での風は紬だけの髪を揺らし、太陽は紬だけに熱を分け与えた。
熱が伝わてきても、不思議と最近は紬の中で汗をかいたり、熱いという感情や感覚が失われているような気がした。
そんな屋上で笑う叶羽を前にして勿論断ることなんて紬にはとても難しいことだった。だけど、頭をたてに動かすことも難しかった。
「…」
紬は黙って彼女を見つめる。
紬はただ叶羽を助けたかった。
―あの時そう誓ったから
だから、叶羽の未練は突き止め、晴らしたい。
だから、叶羽を救いたい。
だから、紬は諦めない。
―紬はあの夏の日を今でも覚えているのだろうか
夏はいつか、終わりを迎える――
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