蘇らす悪夢の音

「父さん!!」


 紬は慌てて病室の扉を開ける。焦っているせいか呼吸が乱れる。

 普段感情的な顔をしない紬でもこの時間はそうしていられなかった。


「……」


 紬の父は病室のベットで眠っていた。

 病室は静かで細々しい呼吸の音だけが紬の耳に届く。


「過眠症ですね」


 紬の背後から医師が現れ、メガネをくいっと整えた。

 医師は白い白衣を身にまとっており、いかにも医師らしい格好で短髪のおじさんと呼ぶにふさわしい年齢の医師だ。



「その病気は何なんですか?父は治りますか?助かりますか?」


 焦る自身の感情をさらけ出した。自分の父が危ない状態なのか、それともなんともなかったのか、一秒でもはやく耳にしたくて問い詰めた。




「治ると思いますし、助かるもなにも入院だって不要ですよ」


「よ、よかった…」


 紬はほっとして肩をおろした。喧嘩っぽくなってしまっていた父だとしても紬にとってはたった一人の家族であったから。


チリン


「え?――」

 聞き覚えのある鈴の音。

 確かあの時は廊下で聞こえて―


 その瞬間、紬は意識を失った。





 紬の視界は真っ暗闇に覆われた。何も見えず、何にも触れれず。


―ただ聞こえるのはいくつもの音だけ


「嘘ですよね?先生……嘘って言ってください……!」

 何処かで聞いた声だ。優しくて懐かしくて温かい……だけど戸惑っていて混乱もしている。

 よく耳を澄ませば女性がしくしく泣くような音も聞こえてくる。


 お願いだからそんなに泣かないで、とそんな感情が紬の胸のうちにはあった。なんにも関係なんてないのに、そんな気持ちでいっぱいになった。


 あぁ、本当に、悪夢だ―――





 気づけば紬は夢の世界から抜け出し、父の病室のベットで眠っていた。


「何で、また」

 そんな独り言をつぶやく。

 外は暑さを示す太陽が光を放っている。時刻は三時過ぎ。もう学校に行っても間に合わないだろう。


「体調の方はいかがですか?」

 病室の端にある椅子に座った医師は真剣な面で紬に尋ねた。


「えっと、あの、何ともないです。ご迷惑おかけしました」



「それなら良かったです。きっと安心したんですかね。あ、そうそう。お父様ならもう退院されましたよ。看護師がご自宅まで連れていきましたので安心なさってください。ですが、しばらくの間は、いや治るまでは仕事は復帰できないと思いますのでそちらの方もよろしくお伝え下さい」



 それから紬は医師から父の病気の症状や、仕事のこと、色んなことを伝えられた。

 家に帰った紬はさっそく父のもとにいこう、父の部屋で話だけでもしよう、そう思ったのだったが扉を開けることは紬にはできなかった。



「あの夢…」


 紬はあの夢を思い出した。

 いつも悪夢を見る時はあの鈴の音が鳴ったいたことの違和感を紬は感じた。

 耳鳴りに近いなにかかもしれなかったが、紬が知る限りそんな病気も症状もしらなかった。


 これももしかしたら幽霊の仕業だとそう思い始めた。

 

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