第四章
傍で笑っていて
あの日を堺に充孝と紬は言葉を交わすことが減り、父は仕事で家にいる時間も減っていた。
「いってきます…って誰もいないか…」
そう玄関で呟いた。
ズーンとした気分で足を動かす。どうもあれから調子が悪い。学校も休みがちになったり、ご飯が喉に通りにくくなったりで紬には元気があまり残っていなかった。
「にゃー」
そんな紬の傍に預かっている子猫がやってきた。拾ったあの日からだいぶ日数も経って、懐いてきた。
「君がいたね……いってきます」
―学校にて
「屋上が何か落ち着く…」
『紬さん、久しぶり…ですね』
昼休みの時間に紬は独り言を呟いていると、叶羽が顔をひょこっと出してきた。久々に紬に会えて何処か嬉しそうな様子だ。
「…!びっくりした」
『ふふっすみません。紬さんの気配を感じたものなので、つい』
「……」
『どうかしたんですか。話をしましょうよ』
黙ったままの紬に囁き、傍に寄った。
ただ俯く紬に叶羽は微笑む。
『どうかされたんですか?』
「何も無いよ」
『何も無いはずないですよ。こんなに落ち込んだ紬さん、初めて見ましたもの。落ち着いている様子はいつもですが、何処か悲しそうです』
「そんなこと…」
『ありますよ。いつも見てたんですから。分からないはずないじゃないですか』
満面の笑みを浮かべた叶羽を見て、紬はすこしほっとした。
「私、叶羽が明るくなって良かった」
『え!?』
頬を赤く染め、叶羽は驚愕した。
「ふふっ。あんなに辛そうな顔してたのにもう、こんなに可愛い顔できちゃうんだもん……私、お父さんと喧嘩しちゃったの。どうしても仲直りしようにもできなくてね」
『……。私の親友もそんなこと悩んでたことありましたよ、友達を怒らせてしまったとかなんとか。喧嘩でそんなに落ち込むかってくらい落ち込んでて、それを言ったら「あの子は大切なの」とか言い出したり。…!紬さんと私の親友は少し似てますね』
本当に叶羽は明るくなった。紬と会う前は泣きそうな顔で一人寂しく…
だけど、紬と話続けた結果こんなにも可愛らしい表情ができるとは誰が予想したことか。
「……」
『仲直りしようとしなくていいんです。紬さんは紬さんらしく生きて、私の傍でにこっと笑ってください』
涙を溜めたその瞳を輝かせながら、彼女はそう言って笑った。
そして、触れれないその手を紬の手に翳した。
「……」
思わず紬は棒立ち。
その様子を見て叶羽は焦り始めた。
『あぁぁあ、すみません!私ばっかり話してしまって』
「っふふ」
思わず吹き出して紬は腹を抱えて笑った。
『ふふ』
つられるがままに叶羽も笑って、泣き笑いして、この日は笑って過ごしてた。
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