知らぬ亡霊
「どこ……ここ」
一人でそう呟きながら猛スピードで階段を下り、叶羽を追いかけた紬は廊下を見渡す。そこには叶羽の姿は何処にも見当たらず、ただ誰一人いない見知らぬ廊下が長々と続く。
そんな廊下に優しい光を灯している魂のような物体がいくつも現れた。
…いや、あれは魂ではない、人影だ。
「え……」
驚愕の表情を隠せない紬は怖くて走って通り過ぎようと試みる。が、その人影は走り行く紬に迫り寄ってくる。
「な、何…」
紬は突然、猛烈な眠気に襲われ、その場に倒れ込む。瞼は上へと上がろうとせず下へと下がり、紬はそのまま眠りについてしまった。
『む……さん!…………紬さん!!』
耳にしたことのあるその声では聞いたこともない中々の声量。落ち着いた優しい声には相応しくないような声量。
その声は叶羽だった。
「叶羽……?」
紬が目を覚ますと、叶羽は涙目の顔で安心した表情を浮かべた。
『あの…さっきはごめんなさい…屋上でしたので昔のこと思い出しちゃって取り乱してしまいました…』
「うんん、こっちもごめん。それはそうと何でここに…?」
周りを見渡すと、廊下は見慣れた廊下へと戻っていた。
外の空は黄金色に輝き、夕方を知らせるカラスも飛び交っている。さっきからの時間から随分長いこと時間が経過しているようだった。
『亡霊に襲われていたのです…私も気づくのが遅く危なかったです』
「亡霊?幽霊とは違うの?」
『死者が未練を晴らすことができていないものを幽霊、亡霊は死者の魂という感じですかね…簡単に言えば、人に危害を加えるか加えないかの差ですね、亡霊は危険と言った方がいいです…大抵の人に危害は加えられないんですが、紬さんの場合は奇形ですので…後は幽霊は言葉を発することができますが、亡霊にはできません。言葉を発することができても普通の方には声なんて届かないんですけどね…』
―亡霊は危険
この先何が起こるかわからないということだろうか…紬は想像など出来なかった。
―そんなとき
「如月さん!?今まで何処にいたの?皆心配していたわよ。お母さんが職員室で待っているわ………ってその手どうしたの…?」
国語の教師がやって来ると紬の手を見て顔の表情が硬くなった。
言われて見てみると、紬の掌から血が流れ、気づかなかったが小指の感覚がなくなっている。
「――え?」
『すみません、これでも抑えた方なのです……』
「保健室に行きましょう。何故こんなことになったのですか?あなたはトイレに行っただけですよね?学校中を探しましたが見当たりませんでした、何処に行っていたのですか?危うく警察にも届けを出すとこでしたよ?」
「あっ…………あの…すみません」
いつもあんなに邑楽かな教師が突き刺すように鋭い言葉を口から発した姿をお目にかかったことは今まで一度もなかっただろう。それほど心配していた証拠だ。
思いもよらぬ出来事に上手く言葉がでてこない。
この後は黙ったままの教師に連れられ、保健室で手当てを受け、紬は学校を後にした。
家に着くと、心配そうな顔をした父の充孝が出迎えた。
「紬?何があったのか」
「何にもない…」
「そう………」
充孝はスマホを取り出すとそのままリビングに戻ってしまったので、紬は私室に入った。
「ちょっと残念……」
ベットにダイブをし、そんな風に呟く。
久々に父親と顔を合わせたというのにあんな顔をされると少しばかり何処か寂しい気持ちになってしまう。
紬一家は兄弟もいないので父と紬の二人暮らし、大体父は仕事へ出掛けているのでちゃんと会話を交わしたのは一ヶ月ぶりくらいだろう。
そんな悲しみに浸りながら、そのまま紬は眠りにつくのだった。
そして、紬は翌日病院に向かうことになった。
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