Noko・Noko！（のこ・のこ）

第48話 それってドン引きじゃない

「って言うかさぁ、アンタたちもいい加減にしなさいよっ！　何さっきからジーっと固まっちゃっててさぁ！　こっちは動画とってるのよ。ちょっとは動いてもらわないと面白くないじゃん！」

「え？　紬（つむぎ）ちゃん、動画撮ってたの？」

「え？　撮らないの、こんな面白そうな場面なのに」

「まっ、まぁ面白そうではあるけれど」

「いやっ、チョッ、だだだ、誰だっ！　お前たちはっ！」

「誰だと問われりゃ、名乗らねぇ訳にも行くまいて。あたしゃ、生まれも育ちも豊島区巣鴨、とげぬき地蔵で産湯をつかい、姓は藤崎（ふじさき）、名は紬（つむぎ）。人呼んでエロエロの紬（つむぎ）ちゃんと申しますっ！」

「コラコラコラ。紬（つむぎ）っ！　それ全部嘘じゃねぇか。だいたいお前、世田谷の生まれだろ？」

「おぉ、ちーちゃん。復活したねぇ」

「さすがにそうスラスラと嘘八百（うそはっぴゃく）並べたてられちゃあ、ツッコまずにはおれん」

「嘘八百（うそはっぴゃく）ってひどいよぉ。名前は本当だよ？」

「名前以外全部嘘じゃねぇか」

「エロエロも本当だよ？」

「そこはどうでも良いんだよ！」

「くっ！　そこはどうでも良いのか、実は一番のお気に入りの部分なのにぃ！」

「まぁまぁ。紬（つむぎ）ちゃんのボケはそのぐらいにして。そんなことより、どうして生徒会副会長という重責を担う東雲（しののめ）先輩が、こんな場所で婦女暴行に至ったのか？　と言う部分に焦点をあてて行きたいのですが、いかがでしょうか？」

「異議なーし！」

「うっ、うむ私も異議はない」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ、婦女暴行だなんてそんな？」

「だってそうでしょ！　誰もいない生徒会執行部の部屋で、男女が二人きり。しかも、男性は己がイチモツを露わにしながら、女性にそれを吸えと強制していたんでしょ！　しらばっくれても無駄よっ！　私がちゃーんと動画に取っておいたんだからっ！」

「つつつつ、紬（つむぎ）にっ、パパパパ、パル子っ！　それはマジかっ！　私がほんの一瞬目を離していた隙に、そんな大それた展開になっていたのかっ！」

「そんな、私やパル子ちゃんをパパ〇パパフィみたいに言わないでよぉ」

「なんだ？　そのパ〇パパパフィって言うのは？」

「２００２年に終了したバラエティ番組」

「生まれる前じゃねぇか」

「ちょうど昨日の夜、動画で見たんだ。結構面白かったよ」

「知らねぇよっ！」

「それにさぁ、ちーちゃんったらほんの一瞬とかって言ってるけど、私とパル子ちゃんのコント一本分ぐらいは停止（ストール）してたんだからねぇ」

「マジかっ！　くっ、しまった！　大事なシーンを見逃してしまったのかっ！」

「ちーちゃん、ちーちゃん。本音が口に出ちゃってるよ」

「ちょっ、ちょっと待ってくれっ！　俺は全然そんな事してないし。大体俺、イチモツなんて出してもいないだろっ！」

「あらやだ。東雲（しののめ）先輩ったらエッチぃ。イチモツって何の事を想像してたんですかぁ。私は東雲（しののめ）先輩のプルプルの唇（くちびる）のことを指摘しただけですけどぉ」

「うわぁ、紬（つむぎ）ちゃん、言い方がいじわるぅ」

「だだだ、だとしても、俺は『吸え』なんて言ってないっ！」

「えぇぇ、そうでしたっけぇ？」

「ぐぬぬっ！　なっ、なぁ！　楢崎（ならさき）、俺、そんな事言ってないよなっ！」

「はい、その様な事は申しておられませんでしたね」

「だろぉ！　ほら、みろっ！　楢崎（ならさき）からも説明してやってくれよっ！」

「そうです。東雲（しののめ）様は吸えとはおっしゃいませんでしたが、東雲（しののめ）様のあの澄んだ瞳が……獣のように俺の唇を嬲（なぶ）ってくれ……とおっしゃっている様に感じましたの。でも、でも。いくらわたくしが恋焦がれ、思いを寄せる殿方とはいえ、わたくしにとっては今回が初めての接吻（ちゅぅ）。いきなりわたくしの方から嬲（なぶ）れとはあまりにもご無体な……と思わざるを得ず。あぁ、いえいえ。もちろん順を追って、順を追ってさえいただければ、どのようなご要求にもお応えするのが許嫁（いいなずけ）としての務めであると思い定めてはおりますが。とは言えさすがのわたくしも今の段階では難しいゆえ、『あなた様の方から私を自由に嬲（なぶ）っていただく訳には行かないでしょうか？』と、お伝えしていた所なんですよ」

「あっ！　あれって、そう言う意味だったのかっ？！」

「えっ！　楢崎（ならさき）さんは、本当にそれ言ったんだ！？」

「当然ですわ」

「「「……」」」

　うわぁ、どん引き。