第5話 寝そべってても良いじゃない

「で? 何でこうなる?」


「え? なんでって?」


「いや、この状況をはたからみると、かなりシュールと言うか、なんというか……」


「だって部室にはテーブルって無いんでしょ?」


「まぁな。食事用の御膳はあるが、さっき使ってみたら結果的にになったしなぁ」


「だよねぇ。ホント意味わかんない」


「いやいや、意味は分かるぞ。これは効果によって説明が付く。和風御膳の場合は畳の上からおおよそ十五センチ程度高くなっている訳だが、枕も無く畳の上で横になっている我々の場合、その口元は残念ながら御前の高さより低くなってしまう。この状態で御膳の上に置かれた茶を飲もうとすれば、ストロー内の抹茶ラテの自重と大気圧の関係により、ストロー内に抹茶ラテが残っている限り茶碗の中の抹茶ラテが一気に口の中へと流れ込む事となる訳だ。大方予想はしていたのだが、これほど大変な目に合うとは少々意外であったな……」


「本当にもぉ、おかげでお気に入りのブラまで抹茶ラテ味になっちゃったんだからね」


「あっ、あぁそうだな。私も同じ状態だから良く分かる」


「それでぇ、結局ふたりともノーブラで体操服に着替えてぇ、今度は茶碗を畳の上に置いた状態で、ふたりで寝転がって、ストローで抹茶ラテを飲んでるって事だよね」


「あぁ、そうだな。詳細な説明、痛み入る」


「いやいや、苦しゅうないぞよ」


「で、話の本題に戻るが、何でこうなる?」


「いや、だからぁ、そのザイオン効果ってヤツでマトリ〇クスがぁ……」


「いやいやいや。ザイオン出て来て無いし。サイフォンだし。しかもザイオン出してマトリックスって言っちゃってる時点で、完全に確信犯だろ? お前っ、分かってて言ってるだろ?」


「えぇぇ。預言者オラクルに聞かないと全然わかんない」


「とにかく一回マト〇ックスから離れようか。その上でだ。一度抹茶ラテを上半身に浴びると言う大惨事に見舞われた二人な訳だが。なんだったら一回二人とも立ち上がって各自のロッカーに行って体操服を取ってさえ来ている訳だよ。にもかかわらず、どうしてもう一度二人並んで寝そべっているのか? と言う疑問が必ず湧いてくるはずだ。それであれば、普通に座った状態で抹茶ラテを堪能すれば良かろう? なんだったら私なんて、さっきから二回ぐらい抹茶ラテが鼻に抜けそうになって、軽くツーンとしているぞ」


「あ、ちょっと待って」


「んあ? 何を待つんだ」


「今の説明に訂正箇所が」


「おぉ、それは申し訳ない。是非訂正して頂こうか。で、どの部分に誤りを感じたんだ?」


「えぇっとねぇ。……二人並んで寝そべっている……って所ぉ?」


「うぅぅむ。なぜに疑問形なのかも気になるが、それ以上に、私の文才をもってしてもこの文章の中に誤りが見つからない点については更に気にかかかるな。とりあえず文章の誤りについて、もう少し詳しく聞かせていただこうか?


「うん、そうだねぇ。ここはねぇ、二人並んで寝そべって……じゃなくってぇ」


「はいはい。寝そべってじゃなくって?」


「二人寝そべって! が正解でしたぁぁ! パチパチパチィ!」


「あっ! ソコかっ! ソコなのかっ! なるほどなぁ……って言うか、そんなもん、分かるかぁ!」


「えぇぇ、重要なポイントだよぉ!」


「た、確かにっ、確かに重要なポイントだっ、重要なポイントではあるけれどもっ!」


「でしょぉ。二人仲良く並んでお互いの目を見つめたままで、抹茶ラテを飲んでるんだよぉ」


「見つめ合ってとは言え、二人の間には結構大きめの茶器が鎮座しているのではあるがなっ!」


「でもでもぉ、見つめ合ってるのは本当だからねっ……うふっ!」


「くっ、その笑顔……神かよっ!」


「何か言った?」


「いや、別に……」


「私は神じゃなくって、アーキテクトだよ」


「だからマトリ〇クスから離れろって……って言うか、聞こえてんじゃん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る