第二話 拷問
零さんのインカムを帷さんから受け取ったときにはもう、約束の時間が過ぎてしまっていたので、真っ直ぐ本部に戻る。
「もうちょっと遊びたかったなぁ~」
「誰かさんがインカムを忘れていったせいで、30分損したからね」
私が嫌みを零さんにぶつけると、本人は口笛を吹き視線をそらした。
わざとらしい。
しばらく歩くと一時間もしないうちに本部に戻ってきた。建物の中に入ると、
「おふたりとも、お疲れ様です。 休憩したばかりなのにすみませんが、次の仕事です」
「え~、またぁ?」
はぁ、なんでこんな時に限って仕事が立て続きに来るのかな?こんなことになることがあらかじめ分かってたら、インカム回収零さん一人で行かせたのに。
「それで帷、次の仕事は?」
「はい。 拷問、でございます」
ここの機関は暗殺だけではなく、捜査、スパイ活動、拷問など様々なことをやっている。ここはある程度人がいるから、いろいろと出来るみたい。
それにしても、拷問かぁ。
「果恋ちゃんの一番好きな仕事だねっ!」
「別に一番って訳じゃ」
「でも顔、嬉しそうだよ?」
まぁ、好きな仕事といわれたら否定はしない。
どこが好きかといわれたら、無抵抗の人を痛みで追い詰めれるところかな?なんかちょっと、ゾクゾクしてやみつきになる。
「それでは、こちらへ」
深くまで潜る地下室までの階段を降りる。その間に帷から説明を受ける。ターゲットは何をしたのか、これから何を吐き出させればいいのか。
「それじゃあ、一時間以内におねがいします」
「果恋ちゃん、やり過ぎてこの間みたいに気絶させないでよ」
「分かった」
帷が重い扉を開けると、なかからさるつぐわをつけられた若い男性が姿を現した。拷問される人は全員、屈辱と無念を与えるために裸にする。
今回のターゲットは警察の公安部のコンピュータに忍び込んで、国家機密情報を盗み出そうとしたらしい。吐き出させるのは、誰に指示されたかということだけだ。
用意された拷問器具は……刺繍針とメスか。
「じゃあやるよ」
「うん」
零さんは素早く男からさるつぐわを外す。
「げほっがほっ!」
「こんにちはお兄さん」
「……俺は何をされても吐かないからな」
「そう? それはそうとして、公安のセキュリティって、思ったよりも甘いよねぇ」
「は?」
男は私からでた言葉が予想外だったようで、困惑してる様子だ。
私は細い針の先を男の爪と指の間に添えながら次の言葉を紡ぐ。
「私でも簡単に侵入できそうなくらい。 でもそれをしないのはねぇ?」
「うがぁぁぁっ!」
「こうやって、いたぁ~い拷問を受けるのが嫌だからなの」
男の苦悶の声を聞いた瞬間から危ない快楽のスイッチが入る。
「人を痛めるのって、なんか興奮しちゃうんだよねぇ~?」
「ぐがぁっ!」
「あなたも感じてたんでしょ? 警察を欺くたびに訪れる快楽を」
「うぐっ!」
その後一分ほど私と零さんは針を刺し続けた。男はとうとう痛みに耐えきれず声を上げる。
「わかったっ! 全て話すからもうやめてくれぇっ!!」
「そう? じゃあ話してみて。 誰の命令かだけでいいから」
「暴力団の××××ってところからです」
「教えてくれてありがとっ! お礼にもっと痛覚を与えてあげるっ!」
「え?」
私は針からメスに持ち替える。そして、男の手首を深く切る。
溢れでる赤い液体を舌で絡め取り味を確かめる。口いっぱいにあふれる鉄の味とほんの少しだけ感じる甘さ。
あぁ、美味しい。
「顔に似合わず甘いのね。 あなたの味、気に入っちゃった」
「やめろ、やめてくれぇぇぇっ!」
「果恋ちゃん、トリップしてキャラ変わっちゃってるよ」
「いいじゃん別に、楽しいんだし」
メスで少しずつ傷を増やしてゆっくり失血死させる。それが私の拷問。他の人からは狂ってるとか掃除が大変だとかいろいろ言われるけど、私が満足するからそれでいいじゃない。
「そういえば前から言おうと思ってたんだけど、他の人の血をなめるの、感染症とかいろいろあるからやめた方がいいよ」
「そう? じゃあ零さんのはいい?」
「いや、遠慮しとく。 なんか吸われすぎてミイラになりそう」
「あははっ! 冗談よっ」
男はだんだん叫び声を上げなくなり、痙攣し始めた。
あーあ、もうこれでおしまいかぁ。最近来る人はあっけないなぁ。もっと楽しみたいのに。
やがて男から痙攣が止まり、心臓も呼吸も止まって生命活動を停止した。それでも私は恍惚とした気持ちで男を見続けた。
なんて美しいんだろう。血塗られた私のお人形。そのまま凍りづけにして部屋に飾っておきたい。
もっと、いろんな人の拷問、してみたいなぁ。
諜報員 花血染め fiower blood dye 川沢 樟 @kawasawakusunoki
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