第2章 落第女神の憂鬱 3

 それから5分の間、世間話をしながらボクたち四人は神界大通りを歩いていく。どうやら今日は天女学園は午前で放課になったらしく、コトナとハルノは暇つぶしに一緒にくるという。

 とは言ってもボクは振られたら話をする程度に会話していた。コミュ障、というべきなのか、ボクは人と話すと疲れる気質だった。そんなに会話したいとは思わない。これからダフネにお会いすることもあって、普段より一層めんどくさかった。

 余計なお世話なのに、ダフネと面会する事実をおしゃべりなミヘアが代わりに説明した。二人は察してくれたのか、「キンチョーカチカチだね」「ご苦労様です……」と、彼女らなりに気を使ってくれた。

 しかし、ここでボクの心をさらにかき乱す話題を、コトナは出してきた。

「ねえねえ聞いたー? 巷で話題の、人間の勇者のことー」

 まさかここでその話題が出るとは。ボクは暇な時には新聞を見るようにしているのでそのことはある程度知っていた。というより、神界にはそれと勉強くらいしか暇潰しがないから、嫌でも知ることになる。

「確かによく聞きますが、それがどうかしまして?」

 沈黙を貫くボクの代わりにミヘアが聞く。するとコトナは興奮しながら言ってきた。

「あたし調べてて、その実態がわかってきたのよ! モアモアがクッキリに!」

 コトナは学校の研究発表で、神界が司る世界の「勇者」について調べているらしい。「勇者」オタクの彼女にとって、この話題ほど魅力的に映るものはないだろう。

 それからコトナは、聞いてはいないけど自身の調査の成果を発表していった。

 彼の名前は犬丸奏太。数多くある世界のうちの、「ワールド」の世界から召喚され、これまで十回近く世界を救ってきた人間だと言う。実績もさることながら、その攻略スピードにおいても凄まじいものであると言う。平均で一日行くか行かないか、というくらいだから、その速さは異常だろう。

 ここからはコトナが独自に調べたことらしいが、その速さの秘訣は彼の「スキップ」と言う能力にあるという。これはバトルやイベントなどを飛ばすことができる機能で、これで世界救済の効率化を図ったらしい。おかげで彼は一瞬でレベルMAXになり移動も楽に行えて、ボスに臨んで余裕で勝つことができる。

 彼の活躍もそうだが、一番は「スキップ」という機能を思いつき、実践したことが神界の賞賛のポイントだった。コトナも「めちゃんこクールよねー、一瞬で強くなって一瞬で世界を救っちゃうなんて」と褒める始末だった。

「確かに、人間にしては突飛な発想に思えますわね」

「それほど神界の話題をさらうなんて……。一度会ってみたいものですね……」

「でしょでしょ!? 二日に一回のペースで神界に来るらしいから、今度会いに行こうと思ってー」

 ボクを除いた三人は、そのように盛り上がっていた。

 でも、ボクの考えることは、三人とは真逆だった。

「……なんか、嫌だな」

 そのボクの漏れ出たつぶやきを、三人は聞き逃しはしなかった。コトナが一番不思議そうな顔で聞いてくる。

「? どうして?」

「それって、単純にそいつが楽して金稼ぎをしようとしてるだけじゃん。全然苦労しないで有名になるって、なんか違う気がするんだけど」

「あら、苦労しないって、あなたもぐうたらしているじゃありませんの。それにあなたは、落ちこぼれってことで有名ですし」

 ミヘアは皮肉たっぷりに言ってきた。そのせいかボクは若干荒くなる。

「うるさいなあ、なんでそんなヤツが美名高くて、なんでボクが悪名高いんだよ!」

 流石にまずいと思ったのか、ハルノが割って入ってくる。顔から冷や汗を出しながら。

「まあまあペトラちゃん、落ち着いて。ペトラちゃんもいいところあるから……」

「え、どんなとこ? それほどまでにハルノがいうならさ、さぞかしものすごいんだろうね?」

「え、あ、その……」と、やはりハルノは声に詰まった。

「……声が可愛いところとか?」

 しばらく考えた挙句の答えを聞いて、ボクはがっかり交じりに叫ぶ。

「全然嬉しくない!」

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