第1章 焦る勇者 8

 そんなことを振り返っているうちに、いつの間にか正面には女神ダフネ、まあまあ久しぶりの宇宙空間に戻ってきていた。二時間前と、全く同じ場所。

「ご苦労様でした、犬丸奏太さん。魔王は倒され、この世界に安定がもたらされました。それにしても『スキップ』の魔法の効果は驚愕いたしました。使い方によって、最速であの強い魔王を打ち滅ぼせるのですから」

 女神も二時間前と同じ微笑みをしながら、賞賛を送ってきた。俺もその笑顔の前では流石に、「いやまあ、どうも」と少しばかり照れてしまった。

「それでは約束の報酬です」

女神からそうして手渡されたのは、現実世界のお札であった。しかも、それが束になったものを、十個ほど。合計は……なんかの大賞の賞金と同じくらい、大金であることは間違いない。俺は開いた口が塞がらなかった。契約通りの金額とはいえ、実際手にした感覚を覚えると、とてつもなく素晴らしい。

「す、すげえ」

「驚くことではありません。世界を救った勇者には、相応のお礼をされるのは、どの世界を救ったとしても同じです」

「なるほど、というか、他にも世界というものは、たくさんあるもんなんですね」

「無論です。今あなたが行った世界も『メノムス』という世界の一つでしかありません。世界はざっと一万以上あります。もちろん、あなたが住んでいる世界も『ワールド』という名前の世界です」

「なるほど……」

 俺はその札束を現れた手提げバッグの中に全部入れている途中であった。しかし女神のその言葉を聞いて、ピンときてしまった。

「女神様、まだ魔王によって破滅の危機にある世界ってありますか?」

「それはまだごまんとありますが、まさか、また勇者になりたいとても?」

「そのまさかですよ。『スキップ』が使える勇者として、俺は役に立つはずだ」

「おや、どのように?」

 俺は大きく頷いた。女神は否定しなかったので、説得次第では、行けるかもしれない。

「理由は二つあります。一つは……、まあ個人的な感想ですけど、さっきの冒険では若干物足りなかったんですよ。まあ、元はと言えば僕が急いでいただけですけどね。でも今度は瀬大集まっているときじゃない時にまた挑戦したいという気持ちがいっぱいなので。もう一つは、また別の初心者を連れてくるよりも、一度魔王討伐した経験者の方が魔王討伐しやすいかなって。この『スキップ』さえ駆使すれば、楽に討伐できるはずです。そちらはベテランを雇える、僕は報酬を毎回手にできる、ってことでいかがでしょうか?」

 要するに、「勇者」を俺の稼業にするということだ。異世界転生が一度しかできないというのは一般的なイメージだと思う。でも俺は違う。

「あなたの申し上げたいことはわかりました。しかし、これは神々の世界の掟に関わってくるものなので、元老院と相談してきます。しばしお待ちを」

 深く考えるそぶりもなく、女神ダフネは足元から光に沈み込むように消えていった。どうやら上層部と掛け合っているってことらしい。神の世界も大変なもんだ。

 と、思う間もなく再び女神ダフネは姿を現した。彼女は微笑んでいた。

「他の神々もあなたの考えには賛成したとのことです。普通、異世界転移者は満足して自分の世界に帰るか、穏やかに暮らそうとするものですが、あなたのような意欲の高い冒険者はなかなか物珍しいと」

「なるほど、契約成立っすね」

 そのようにかっこよくセリフを決めた俺だったが、内心は飛んだり跳ねたりするくらい喜びたかった。これで将来が困らない。ゲームも高いやつが買える。希望の発想がどんどんと沸き立っていくのもまた嬉しい。

「それではごきげんよう。また同じ場所を通れば、この神界と繋がりますので、勇者になりたい場合はぜひ」

「ああ、どうも、よろしく!」

 俺は高らかに叫びながら、真っ白な光に包まれていった。

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