第1章 焦る勇者 6
しかしその勇悦は、スライムが同時に襲いかかってきたことによって一瞬で終わる。やはり一体倒されたとみるや、今度は集団連携して戦おうとするあたり学習機能はあるらしい。
襲いかかるスライムたちに対して、俺は剣を振るい続けた。もちろん自分に群がってくるハエを払うかのように。それよりもタチが悪いように思えるが、体が大きい分剣は当てやすい。
五匹まで減らした。この調子で全滅させれば、と思っていた矢先、スライムが本領を発揮し始めたらしい。さっきは物量任せではあるものの数体同時に攻撃してきた彼ら。しかし今度は俺を五匹でしっかりと取り囲み、一匹目が飛び出したと同時に、後ろから二匹が攻撃をするという綿密なタイミングで攻撃を仕掛けてきた。先程よりもまた一段と学習してきている。
そこらへんの俺の記憶は、もはや定かではない。なぜならわれを忘れるくらいにひたすら剣を振るい、ひたすら避け続けたのだから。動きはギリギリ見切れるくらいなのが幸いだった。
最後の一体を残っていた力全てを使って叩き斬る。その赤いスライムは、悲鳴をあげることなく、他のやつど同様に消滅した。
周りにはもう一体もいない。ようやくここで俺は初勝利を勝ち取った。
そのことを実感したと同時に、全身の力を使い果たしたかのように跪く。息を切らして、疲労がようやく全身に伝わってくるのを感じる。ゲーム趣味だけあって運動してこなかったことを、この時ほど後悔した事はなかった。
一発でやられるくらいの体力であることからもわかるように、スライムはこの世界の最序盤の敵である事は疑いようがない。
しかしその敵と一線戦った状態でこの結果じゃ、言葉通り、本当に先が思いやられる。そもそもインドアの俺にいきなり戦闘を強いる事自体が、おかしな話だと思った。
やはり目に見えた主人公補正は全くないらしい。恨むぞ、女神様。
そう思いかけた矢先、一枚の紙切れが空から降ってきた。
ひらひらと舞い落ちるその紙をすかさずキャッチする。上質な羊皮紙のそれには、文字が書いてあった。
「経験値300。レベルアップ LV1→LV2」
なるほど、さっきの戦闘のリザルトか。ゲーム画面ではない分、この世界のレベルアップはこのようにして知らされるらしい。
それにしても、十体倒しただけでレベル2とは、相当ハードだと思った。
またしても、スライムに出くわす。今度は先程の倍の数、突如として現れた。
またかよ……。
そう思いながらも、動悸がおさまらないまま、再び剣を身構えることになった。
一応慣れは感じていたのでもう一度倒せる自信はあるが、流石に連戦はきつい。
もうこの戦いはうんざりだ……。
『一度戦った敵に限られますが、その敵を思い浮かべながら『『スキップ』』と唱えればその戦闘を飛ばすことができます』
頭の中に、さっきの女神の言葉がよぎる。
今対峙しているのは、一度戦ったスライム。まさに『スキップ』の本領を発揮する絶好の機会だった。実感はないため半信半疑だったけれども、今にも集団で襲いかかってくる敵の前で、有無を言っている暇はなかった。
「スキップ!」
スライムたちを倒す光景を思い浮かべながら、いつの間にか全力で叫ぶ。
と、その言葉の次の瞬間、スライムたちは消えていた。
さっきみたいに、倒されて蒸気のように消え失せたのではない。あたかも蜃気楼だったようにパッと消えてしまった。
何が起こったのだろう?
俺のその疑問は、すぐさま空から降りおちてきた羊皮紙のリザルトが物語っていた。
いつの間にか、経験値をしっかりと手に入れ、レベル3になっている。先程起こるべきだった戦闘は、無かったかのように。
半信半疑だった「スキップ」の魔法。これがこんなに便利なものだったとは。
これをうまく駆使すれば、クリアまでの間短縮も容易にできるはずだ。
……ここで、俺はとある妙案を思いついてしまった。
これが実現できるならば、考えうる限り最速でクリアすることができるだろう……。
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