第1章 焦る勇者 5
目を開けると、そこには最初の街……ではなく、砂と岩の荒野の光景であった。
普通のRPGなら、人気のある村や街から始まるはず。せめてその郊外からだとは思うが、ここは見渡す限り何もなかった。
「いきなりこんな不気味な場所からのスタートかよ……」
まばらに見える木も、葉っぱがなくすでに朽ち果てようとしていた。
まあこの世界は、魔王が支配しているっていうし、見た目も邪悪っぽくなるかもしれないな。
と、ここで自分の服装に違和感を覚えた。
見てみるといつの間にか、ファンタジー世界恒例の西洋中世の雰囲気を醸し出した服装になっている。もちろん鎧兜は身に付けていない。そして腰には、しっかりと木の剣をぶら下げていた。
「まさに初期装備ってか……」
こんなことなら、鎧兜の方を所望した方が良かったかもな、と一瞬ではあるけれど思ってしまう。
唯一まともなものは、首からぶら下がっている懐中時計。銀製のそれの蓋を開けてみると、十六個の文字盤が円形状に並んでおり、長針短針が時を知らせていた。元の世界の時計が十二個の文字盤であったことからも、時間の概念が違うのだろう。やはり、ここは異世界であることを実感させてくれる。
にしても肝心の武器が、切れ味もくそもない木の剣じゃ、これほど心細いものはない。
「ここで敵が現れでもしたら、たまったもんじゃないな」
そんなフラグめいたことを言っていると、すぐ近くで蒸気のようなものが地面から噴き出した。ここは火山じゃあるまいし、蒸気が吹き出すなんてことはありえないはずである。しかもそれは一箇所に留まらず、二個目、三個目と自分の周りを囲むように、それは現れ始めた。
そしてその蒸気は、何やら集まって形作り始めた。
そして、敵の姿になった。恒例の敵の、あのスライムのような奴だった。
柔らかいゼリー状の生物なのは聞いた通りだと認めるが、目玉が一個しかないのは驚いた。一体目の赤いスライムをきっかけに、次々と黄色、緑といった色とりどりのスライムが姿を現した。サッカーボールよりひとまわり大きいくらい。そんな生物がいきなりの登場したのは、おそらく魔法の効果だろう。
全部で十体くらいは居るだろうか? 俺をしっかり包囲しながら、今にも襲いかかろうとしていた。
「上等だな。異世界ものはそれほどやったことはないけれど、アクションゲームをしていた俺だ。こんなの素早く片付けてやるぜ」
俺は木の剣を抜く。そして中世物アクションゲームさながら、それらしく身構えた。
正面のスライムが、今、飛びかかってきた。
「ふっ!」
とっさにかわすことに成功する。しかし攻撃してきたスライムは振り返るスピードが遅く、隙だらけだった。余裕でその背後から木の剣を叩きつけることができた。
やはりスライムというだけってニュルッという感触すらない。どれほどダメージを与えたのかさえ分からない。この世界はゲームと違って、リアルなことが改めてわかった。
しかしスライムは斬り落とした先から半分に割れ、そのまま溶けて蒸気に戻っていく。どうやら、倒すことができたらしい。
やった。ついにこの俺が、リアルで敵を倒すことができた。呆気なかったけど、それでも初勝利を手にした感覚は新鮮なものだった。
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