第1章 焦る勇者 4
終わった羊皮紙が、はらりと女神の手元へ飛んでいく。魔法ともいうべきその力を、俺は初めて見た。女神はそのサインを一瞥する。
「決まりですね。それでは、私から贈り物を授けましょう」
「お、どんな?」
「貴方の望む能力を差し上げましょう。冒険を進める上で、必ず役に立ちそうな何か一つを」
聞く限りの異世界転生の恒例はつきものみたいで良かった。
さて、一つだけらしいが、何を所望しようか。
ここでじっくり考えれば、最初からレベルマックスとか、大金とか、たくさんアイデアは出たはずだろう。
しかし、俺の今欲しいものは「アレクシアス4」以外になかった。早くクリアして、早くそのゲームをプレイしたい。ただそれだけだった。
「望むものも何も、今の俺の願いは、速攻で元の世界に帰って、速攻で『アレクシアス』を買うこと。それしか浮かばないな……。こういうのは」
思考の中で、その考えがまるで邪魔しているようだった。できることなら速攻で終わらせて、元の世界に戻りたい。そのためには効率よく、プレイする方法を考え、そのために必要なものを一つ考えなければ。
効率よくゲームクリアする方法があれば……。
これを突き詰めた先に、俺の答えは導き出せた。
これさえあれば。自信を持って俺は宣言する。
「『スキップ』の能力が欲しい!」
こうして俺の願いを宣言するのに至った。しかし聞いた女神の反応は、
「スキップ……? 一体どういうものですか?」
と、微笑みの表情には出さないものの、理解していないようだった。
「スマホRPGとかであるやつですよ。一度倒した敵を何回も倒すのが面倒じゃないですか。戦闘やイベントなどを飛ばすことができれば大幅な時間短縮になるし、効率よく経験値を稼げる。まあ、普通は『スキップチケット』などといった回数制限がついているんですけどね。もしそれを無限に使用できるなら、効率が良くなるんじゃないかって」
「なるほど、分かりました。では……」
ようやく理解してもらえたらしい。女神が両手を合わせると、その体からさらにまばゆい光が飛び出してきた。しかし閃光というくらいの一瞬の光で、すっかり元どおりの宇宙空間に戻る。
どうやら今ので能力がついたらしい。とは言っても、俺の私服姿は変わらなかったが。
「お望み通り、『スキップ』の効果をつけさせていただきました。これで貴方は『スキップ』と唱えると、望んだ結果に行きつくようになるはずです」
「……そうですか」
力がついたという実感はない。思わずなんの変哲も無い自分の両手を見渡す。
「使える時としてはまず、敵との戦闘の時でしょう。一度戦った敵に限られますが、その敵を思い浮かべながら『スキップ』と唱えればその戦闘を飛ばすことができます。もう一つの用法としては移動の時でしょう。目的地へ『スキップ』と唱えれば、その場所への移動をスキップされるので、瞬時につくことができます。もちろん、どちらの用法も、一〇〇パーセント実行可能な時でなければ使用はできませんが……」
本当についたのだろうか? 説明する女神にそのことを聞こうとする前に、今度は自分の下から光が現れた。下を覗くと、そこには魔方陣があった。それは自分を取り囲むようにして真っ青に光っている。
「それでは魔王を倒した際に、またお会いしましょう。それでは、武運を祈ります」
「ちょ、まだ心の準備が!」
俺の叫びをよそに、穏やかに手を振る女神を見ながら、魔方陣に吸い込まれていった。
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