第27話 襲撃 4
王国の門では既にリーナと軽く百人はいるだろうか……ソレくらいの兵士が対峙していた。
リーナはたった一人で百人の前に立っていたのである。
「へへへ……さぁ、騎士団長様? 今日こそ、この国を明け渡してもらいましょうか?」
「断る! この神聖ヴァレンシュタイン王国はノエル様が神より頂戴した国だ! お前らのような下衆に明け渡す義理はない!」
「神? ははは! 何言ってんだよ! じゃあ、その神様に祈るんだな! せいぜい、俺達に殺されないようによ!」
百人の兵士が百人それぞれ下卑た笑いを浮かべる。リーナは剣をぎゅっと握り締めた。
……大丈夫だ。たとえこの身が滅びようとも、百人を相手に戦った自分の勇士は、みんなの記憶に残る。それがどんなに無惨な最期でも。
私は……みんなのために死ぬことが出来る。
リーナは常にこう考えていた。しかし、剣を持つ手は振るえ、足はすくんでしまう……思考と感情が合致していないのだ。
「ぎゃははは! 騎士様! 足がすくんでいるぜ!?」
「う、うるさい! き、貴様らなど――」
「はい、ストップ」
と、リーナと百人の兵士に間に入る大きな影。
「リーナ。君は勇敢だ。だけど、勇敢と無謀を履き違えちゃいけない。生身の人間で百人相手するのは無理だ」
「なっ……! ユウヤ殿?」
「あぁ? なんだぁ? てめぇは?」
兵士の一人がユウヤを呼びつける。
ユウヤはゆっくりと振り向いた。
「百人……さて、今回は何回死ねるのかな?」
ユウヤは自分が顔をゆがめているのがわかった。正確には笑っているのが。
大勢の敵を前にしてなぜ笑っているのか。ユウヤは自分でもそれが理解できなかった。
それが怪物としての戦いを求める本能だということを、ユウヤ自身にはわかるはずもない。
「お、おい……コイツ、なんかやばくないか?」
カンの良い兵士の一人が仲間に囁く。
「あ? 何ビビってんだ。こっちは百人だぞ? こんなデカイヤツ、みんなで掛かればあっという間さ」
「で、でも……」
「仕方ないな。じゃあ、俺が先陣を切ってやるぜ!」
そういって血気さかんな兵士の一人がユウヤに飛び掛る。
しかし、次の瞬間、兵士は町の周りを覆う壁にめり込んでいた。
「……へ?」
99人が99人、同時に壁の方を向き、情けない声を出した。
壁にめり込んでいる男は……見ただけでわかるように、完全に即死だった。
まるで、ぺしゃんこになったように、身体全体が平たくなっている。
さすがの光景に、99人の兵士全員が青ざめる。
「なんだ? 終わり? まだあと99人残っているでしょ? 来なよ。大丈夫。痛くないよ。一瞬で終わるから」
ユウヤは再びニヤリと微笑む。解け掻けた包帯の間からその醜い笑顔がのぞいてしまった。
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁ!」
その瞬間、兵士の一人が狂ったように叫びをあげ、そのままユウヤに突っ込んでいった。
「お……俺達も続けぇ!」
それを皮切りに兵士達はま一斉にユウヤに飛び掛った。
しかし、その時、飛びかかった全員が、各々把握していた。
コイツには99人で一斉にかかっても、絶対に勝てないのだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます