第28話 襲撃 5
「あ、あぁ……なんだこれは」
リーナはあまりのことに唖然とするしかなかった。
ユウヤが駆けつけてから、まだ五分。神聖ヴァレンシュタイン王国の門の前は、屍の山だった。
百人いた兵士は、皆、ぺしゃんこになっているか、足や手が曲がってはいけない方向に曲がった状態で倒れている。
ただそれを眺め呆けていることしかできないリーナ。
「そ、そんな……な、何がったんだよ……これ……」
あとからやってきた、クラリスはワナワナと震えながらそれを見ている。
「う、うぐっ……ごほっ……うぅ……」
同じくやってきたステラは耐えられず、先ほどから物陰の隅で蹲り、その残虐な光景に耐えきれず、苦しんでいた。
三人だけではなく、街の住民全員が恐怖に言葉も出なかった。
「た、助けてくれ……!」
と、その真ん中では、怪物と成り果てたユウヤが、まだ生きている一人の兵士の頭を掴んでそれを持ち上げていた。
「君、最後の一人ね。どう? 最後の一人になった感想は?」
「し、死にたくない……!」
「そりゃあそうだよね。死にたくないよね。でも、俺、もうこの国の騎士団のメンバーなんだよ。この国を守らなきゃいけないんだ。だから――」
「あがっ……!」
ユウヤの手に力が篭る。ユウヤにとってはこの兵士の頭蓋を粉砕することなど、木の枝を手で折ることよりも簡単だ。
「や、やめて……!」
「ごめんね。でも、これ、約束だから――」
「……や、やめろ!」
と、そんなユウヤに必死の声が呼びかける。
ユウヤはゆっくりと顔を声のした方に向けた。
「……あ。リーナ。見てよ。皆、俺が倒したんだ。これでもう安全だよ」
「ユウヤ殿……き、貴殿は……」
リーナはワナワナと震えている。
その時のユウヤには理解できなかった。
なぜリーナは嬉しそうじゃないのだろうか? 自分はこの国に敵対する兵士を全員倒したのだ。だったら、もっと喜んでくれてもいいものだろうに。
リーナだけじゃない。少し離れて自分を見るクラリスも、ステラも、街の住民達もみんなまるで自分のことを化け物を見るような目で見ている。
なんでそんな目で俺を見る? 俺は人間で化け物じゃ――
そこまで考えてユウヤはハッと我に返った。
そうだ。俺は化け物なんだった。
戦闘で完全に薄れていた感情、そして、現実が一気に押し寄せてくる。
気付けば自分の周りは屍の山――
「あ……あ……あ、あはは……」
「ひ、ひぃぃ!」
思わず笑ってしまったユウヤは、つかんでいた兵士を離してしまった。
兵士は尻持ちを付くとそのまま無我夢中で門の外に逃げていった。
「あ……うわぁぁぁ!」
ユウヤは鼓膜が破れん程の声で絶叫する。そして、そのまま地面に跪いてしまった。
「ユウヤ殿……」
リーナが恐る恐るうずくまるユウヤの巨体に近づく。
「リ、リーナ……お、俺は……」
リーナは何も言えず俯いてしまった。ユウヤはそのまま耳触りな嗚咽を漏らしながら涙を流す。
「……とんでもないことをしてくれましたね。ユウヤ様」
と、周りの状況とは違う冷静な声が聞こえてくる。
ユウヤが顔を包帯が解けかかった醜い顔を上げる。
そこには仏頂面のノエルが立っていた。
「ひ、姫様……」
「ここで泣いていても仕方ありません。城へ戻りましょう」
ユウヤは身体を上げる。
茫然とするリーナ、クラリス、ステラを放置して、ノエルはユウヤを連れて城へと戻って行ったのであった。
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