第18話 王国へ 2

「あ! 騎士団長様だ!」


 大きな門を通った瞬間、小さな子供の可愛らしい声が聞こえてきた。


「おお! 騎士団長様のお帰りだ!」


 そして今度はその隣にいた老人も。あっという間に街のあちこちから子供、女、老人……確かに、若い男の姿を見かけない。


「皆、ありがとう!」


 まるで凱旋するスターのように振舞うリーナとは対照的に、ユウヤは居心地が悪かった。


 皆、リーナに対しては羨望を向けているのに、その隣にいる自分の姿を見ると、まるで不気味なものを見るかのように怪訝そうな顔になるからだった。


「あ、あはは……リーナ? これ、大丈夫なの?」


「ああ。問題ない。皆、聞いてくれ!」


 と、街の中央まで来た所でリーナが大きな声を張り上げた。


「ここにいるのは、ユウヤ。私の命の恩人だ! これから聖女騎士団に入団するから、みんなどうかよろしく頼む!」


 辺りがいきなりシーンとなった。ユウヤもただ包帯の下を無表情で過ごすしかなかった。


 皆ヒソヒソと何か囁いている。そりゃあ、いきなりそういわれても一体何のことやらといわんばかりだろう。


「リーナ……」


「皆、歓迎してくれるな?」


 すると、わずかだが聴衆の中から拍手が起きる。それに続いてそれがさらに大きくなり大きな喝采となった。


「みんな、ありがとう!」


 リーナが深く頭を下げると、より一層大きな拍手が起こった。


 まさに、大スター……ユウヤは先ほど自分を見てガタガタと震えていたか弱い少女と、今目の前で凛として喝采を浴びている少女が同一人物とは思えなかった。


「待ちなさい、リーナ」


 と、そんなところへ響く、冷静な声。


 見ると、まばゆいばかりの白いドレスに実を包んだ金髪の美少女がユウヤとリーナを見つめていた。その傍らには従者と思しきものが二人いる。


「ひ……姫様!」


 リーナは急いでその場に跪く。聴衆も同じように地面に跪いた。跪かないのはユウヤだけであった。


「……おい! ユウヤ殿!」


「いいのですよ。リーナ。頭を上げてください」


「はい!」


 そういって勢いよく立ち上がったリーナ。


 リーナの緊張ぶりからするに、この人が――


「リーナ。その方は?」


「はい! 彼は私の命の恩人です」


「命の恩人? リーナ、ここに帰ってくるまで危険な目に?」


「はい! やはり、敵の罠でした!」


 大きく溜息をつく高貴な雰囲気の少女。


 そして、睨みつけるような瞳でリーナを見る。


「……だから申したでしょう? 休戦条約など嘘だと。あのキリシマがどうして休戦条約など取り付けるのです? 黙っていても私達は自滅するのですよ? それなのに、アナタという人は一人で勝手に飛び出して……」


「め……面目ないです……」


 まるで母親に怒られている子どものように、悲しそうな顔をするリーナ。


 すると、姫様と呼ばれた少女は、今度はユウヤの方をそのままの目つきでみる。


 高貴な雰囲気だが、その瞳はまるで刺すように鋭いものだった。


 しかし、フッと、姫様は急に優しい笑顔になった。


「アナタが、リーナを救ってくれたのですか?」


「え……? いや、まぁ……救うなんて大層なことはしていませんが……」


 ユウヤが戸惑っていると、姫様は優しく微笑んでくる。


「リーナが命の恩人というのですから、そうなのでしょう。私はノエル・ヴァレンシュタイン。この国の主です。主として私のかわいい騎士を救ってくれたことを感謝いたします」

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