第17話 王国へ 1

 そこからリーナとユウヤの旅……といっても、それはついちょっと近所まで歩く感じであった。


 森を抜け、そこから少し歩いた所にそれは存在したからだ。


「あれが、我が神聖ヴァレンシュタイン王国だ」


 そういってリーナが指差した先にあったのは聳え立つ大きな城と、その下に広がる城下町だった。


「うわぁ……ほ、本当にヨーロッパの城みたいだ……」


「何だ? よーろっぱ……?」


 ヨーロッパ……ではないらしい。そもそも、リーナを見るにこの世界ではおおよそ俺の常識は通用しないらしい。


 ユウヤが少し戸惑っていると、リーナが先に進んでいる。慌てて後を着いていく。


「……そういえば、リーナは騎士団の隊長なんだっけ?」


「ああ。王国直属の聖女騎士団の団長だ」


「直属? じゃあ、王様の専門部隊ってこと?」


「いや……王ではない。私が使えるのはノエル・ヴァレンシュタイン姫だ」


「王様じゃなくて……姫様なの?」


「ああ……簡単に言ってしまうと、今ヴァレンシュタイン王国は二つに別れて戦争している。王の側がヴァレンシュタイン王国、そして、ノエル様側についた我々は、ノエル様が神から授かった国として名前を神聖ヴァレンシュタイン王国としている」


「へぇ……で、どっちが勝っているの?」


 するとリーナは立ち止まり、急に俯いてしまった。


 どうやら聞いてはいけない質問をしてしまったらしい。


「あ……ごめん。無神経だったよね……」


「……いや。いいんだ。これから貴殿も神聖ヴァレンシュタイン王国に行くんだ。知っておいた方がいい」


 大きく溜息をつくリーナ。そこまで悲しそうな顔をされると逆に聞きにくくなってしまう。


「……現在、神聖ヴァレンシュタイン王国は非常に苦戦している。領地もほとんど奪われ、民は困窮している。何より……男が一人もいないのはツライ」


「え……? 男が……一人もいない?」


 俺が驚いていると、リーナが苦笑いしながら俺を見る。


「正確に言うと、戦える男が一人もいないんだ。老人と女子供……それだけで国は構成されている。だから、騎士団といっても……私を含め5人しかいないんだ。それが、神聖ヴァレンシュタイン王国の全戦力だ」


「全戦力……5人」


 いくらなんでも呆れてしまった。


 ユウヤの知っている歴史上の戦いでは、300人でその倍以上の敵に立ち向かった軍勢もあると記憶しているが……5人。


 5人では戦争どころか、野球もできないではないか。


「そうなんだ……かなり、厳しい状況みたいだね……」


 と、ユウヤも同じように落胆したときだった。


「……そうだ! 貴殿、騎士団に入団しないか!?」


 急に目を輝かせて、リーナ騎士団長はそう言った。


「え? なんだって?」


 ユウヤはその勢いに戸惑ってしまう。


「貴殿ほどの怪力……いや。その腕力なら、きっと、一騎当千! 私達を補って余

りある活躍をしてくれるだろう!」


「え、あ、いや……俺は……」


「そうと決まればさっそく入団式だ! さぁ! ヴァレンシュタイン城へ向かおう!」


「ちょ……ちょっと! リーナ!?」


 二倍以上違うであろう巨体をものともせず、リーナはそのままユウヤを半ば引きずるようにして、神聖ヴァレンシュタイン王国へと連れて行ったのであった。

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