第16話 不死身の化物 4
「ひっ……!」
リーナが短く悲鳴をあげる。
ユウヤが拳を振り下ろした跡には、まるで隕石か何かが落ちた後のような大きな穴ぼこができていた。
「……君まで、そんなこと言うのか」
「え……」
「……君に! わかるのか!? 人に化物呼ばわりされる気持ちが!? わからないだろう!? 長い時間、ずっと一人でいることの恐怖が……わかるわけないだろが……!」
「な、ユウヤ……殿……?」
ユウヤはそのまま悲しそうにリーナを見る。
リーナも同じように見ていた。
その包帯で巻かれた顔の奥に悲しそうに自分を見る瞳を。
それはおおよそ人間のものとは思えなかったが、その瞳が悲しみに染まっているのだけはわかった。
同時に自分ではとても理解できないほどの深い悲しみであるということも。
「……いや。ごめん。俺が悪いんだ……」
異形の巨人はそのままリーナを背にして自身の小屋のほうへ戻っていく。
その後ろ姿はとても放っておけない……いや、騎士として誇りを重んじるリーナには見捨てておけない姿だった。
「ま、待て!」
リーナは力の入らない下腹部になんとか力を入れて声を出す。
「何?」
「……た、確かに貴殿は! 変な魔術を使うし、剣で刺されても倒れない! 正直、私は恐怖した。それに相変らず得体の知れない貴殿が怖い! だ、だが、貴殿は二度も私を救ってくれた! そ、それだけは変わらない事実だ!」
リーナは立ち上がりさらに声を張り上げる。ユウヤはゆっくりとその巨体をこちらに向けてリーナを見た。
「だ、だから! 今度は私が貴殿を助ける番だ! き貴殿が苦しんでいるなら救ってやる! 騎士の誇りにかけて!」
森中に響くような大きな声でリーナはそう告げた。ユウヤはそんな凛々しい女騎士をただ眺めていた。
そしていつの間にか自身の目から涙が流れるのを感じた。
涙……何百年ぶりか……自分もまだ涙を流せるのか……人間の部分が残っているのか。
ユウヤはそのまま顔を抑え涙を拭いそのままリーナのところに戻ってきた。
「い……いいの? 本当に?」
「ああ。騎士に二言はない!」
ユウヤはその美しく優しげな騎士の笑顔に、これまで鬱屈した千年を跳ね飛ばすくらいの元気をもらったのであった。
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