第7話 怪物と聖女騎士 1

「……ん」


 少女はゆっくりと目を開いた。


「こ、ここは……?」


 見たことのない部屋の天上。


 少女はゆっくりと自分の今までの経緯を思い出してみた。敵の罠に嵌り、逃走し、そして追い詰められ、その後……


「わ、私は……」


「お、起きた?」


 と、ベッドに横たわっていた自分に話しかける声。


 見ると、前方のテーブルには、自分の倍くらいもあるのではないかというほどの大柄の人物が座っていた。


 しかし、その人物の風体は奇妙だった。目深に帽を被り、顔は包帯でグルグル巻きだった。


 そして、全身を覆い隠すような長い袖のボロボロの服を着ている。


「こ、ここは?」


「あ、ああ……お、俺の……家、だ」


 家というにはあまりも殺風景だと思ったが、確かに目の前の人物はどうやらここに住んでいるようだった。


「そ、そうか……私はどうなったんだ?」


「え? あ、ああ。き、君は、その、お、襲われてたんだ」


「あぁ……それは憶えているんだ。それで……なぜ私はここに?」


「そ、それは……お、俺がここまで運んできたんだ」


 フードの男は会話になれていないといわんばかりに辿々しい口調でなんとか言葉を紡いでくる。


 この男に、私は助けられたのか? しかし、追っ手は数十人だったはずだ。この大男一人で奴ら全員を撃退したというのか?


 しかも、私は見た。怪物を。なのに、怪物はどこに行ったんだ?


 まさか、この男が怪物……ってそんなことはないか。


 少女は包帯の男を見つめる。


 怪訝そうな顔で自分を見る少女に包帯の男……ユウヤはその視線に気付き、慌てて取繕う。


「あ……いや。君を襲うとしていた男たちなら追い払ったよ。は、ははは……」


「何? やはり、貴殿が一人で追い払ったというのか?」


「き、貴殿……そ、そうだよ……あはは……」


 ……本当は勝手に俺の顔を見て逃げて言っただけなんだけどね、と言おうかと思ったが、ユウヤはやめておいた。


 ユウヤは今も、目の前の少女に正体がばれないように自身の醜い姿を隠している。だが、その隠している格好の方も不気味な存在なのだが。


 しかし、貴殿、って……いつの時代の呼び方だよ。大体、この子は何者なんだ?


 ユウヤの頭にそんな疑問が浮んだ。


「え、えっと……き、君の名前は?」


 少女は名前を聞かれると表情を一変させ、ユウヤを睨んだ。


「……私の名を問う前に先に貴殿が名乗ったらどうだ?」


「え? あ、ああ。俺? 俺……ユウヤ、です」


「ユウヤ……貴殿はここに住んでいるのか?」


「うん……住んでいるんだ。ずっと」


 ずっと……数百年以上、と言いたかったが、さすがに信じてもらえるとは思えずユウヤはその先を続けるのをやめた。


「そうか。木こりか何かというわけかな? 貴殿は」


「そ、そうそう。木こり。で、き、君の名前は?」


「……私の名前はリーナ・フォン・ルーネイド。ヴァレンシュタイン王国聖女騎士団隊長だ。よろしく」


 そう言って美少女は怪物にその綺麗な手を差し出してきたのだった。

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