第6話 孤独な怪物 6
「お、おい!」
男の呼びかけもむなしく、仲間達は夜の闇へと消えていった。
「な、なんなんだよ……」
男の心に不安が芽生える。
なんだ? この圧倒的有利な状況で何に脅えていた? いくらここが「怪物の森」といわれているからってまさか、本当に怪物でも出たのか?
「ちっ……腰抜け共め。まぁいい。聖女騎士団隊長、リーナ・フォン・ルーネイド! 貴様の命もここまでだ!」
そういって男が再び剣を振りかぶったときだった。
頭上で自らの剣が止まった。男は一体何が起きたのかわからなかった。
「お、おぉ……」
そして響く不気味で、野太い声。
その時、男は思い出した。
幼い頃、母親から言われたことを。
怪物の森には人食いの化物が住んでいるから決して近づいてはいけない、と。
そんなこと、ただの御伽噺だと自身に言い聞かせながらも、男はゆっくりと振り返った。
その先には、ゆうに3メートルは超えていそうな、山のような影、豚のように醜く歪んだ顔、そして、熊のように恐怖を与える化物が、そこにいた。
鈍く光る目、血に飢えた歯……まさに、母親が言っていたとおりだったのだ。
怪物の森の化物……ではなく、ユウヤがそこに立っていた。
「に、人間だ……い、生きてる! 人間が……!」
何年ぶりだろうか。ユウヤは人間を見ることが出来た。
かつて自分が人間として暮らしていたときの、互いに話、互いに笑い合った友達と同じ格好の人間。
ユウヤは目からポロポロと涙をこぼした。
もちろん、目の前の男にはそれはただ怪物が、自分を見て、不気味に微笑んでいるようにしか見えなかったのだけれど。
「うぎゃあああ!」
男は剣の柄を手放した。そのまま全速力でユウヤの横を通り縫け、夜の闇へと消え去った。
「ちょ、ちょっと待って! に、人間だろ! アンタ! ま、まだ、生きている人間がいるのか!?」
しかし、男の返事はなかった。
ユウヤは少し落胆した。やっと人間に会えたというのに……やはり、この容姿ではろくに会話もしてもらえないのか……。
「ひっ……な、なんだ……お前は……!」
と、ユウヤはもう一つの声に気付く。
見ると自分の目の前で凍ったように震えている女の子がいた。
髪は黄金色の金髪、そして、透き通るような青い瞳。
鎧の隙間から見れる健康的な張りのある肌。かつてユウヤが人間だった頃に読んだファンタジー漫画か何かで登場するエルフの女性、といったら適当だろうか。
騎士の格好をしたとんでもない美少女がユウヤの前にいたのである。
「あ、あ……」
ユウヤもつい口をパクパクとさせてしまう。人間だった頃だって、ここまでの美少女に会うことはなかった。
そんな美少女が自分を見てワナワナと震えていればさすがのユウヤだって困惑してしまう。
「え、えっと……だ、大丈夫?」
「ひぃっ……い、いやぁぁぁぁぁ……あ、あぁ……」
すさまじい絶叫をあげたかと思うと、そのまま少女は絶叫して気絶してしまった。
ユウヤは心に深い傷を負いながら気絶した少女を観察する。
本当に綺麗な子だなぁ、とほとほと感心してしまう。
少なくとも、ユウヤのかつて住んでいた国にはこんな子はいなかった。
だったら、なぜこんな場所で、しかも、ファンタジー世界の女騎士のような格好をして、こんなか弱い女の子がいるのだろうか?
「……って、考えても仕方ないか」
ユウヤはそのまま丸太のような腕で少女を抱え込んだ。少女は驚くほど軽かった。
……いや。おそらく、ユウヤが怪力すぎるのだ。まるで紙切れを掴んでいるかのような程度の重さ程度にしかユウヤには感じられなかった。
こうしていつぶりだかわからないが、とにかくユウヤは人間と呼べる存在に出くわしたのであった。
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