第49話 燦然

「ほう、これは……洗浄に至ったか」


 片桐さんがいつの間にか真横に立っていた。


 ぶしつけに言い放った内容についてはあいかわらず把握できなかった。


 ゾン美さんがいたはずの場所には片桐さんと似たような格好をした少女が立っている。


「ふっ、私も思い出すよ、昨日のことのように……」


 なぜだか片桐さんは一人で悦に入っていた。


「ゾン美とは我々天使にとってはサナギの姿のようなものだからな」


 納得はできなかったが、なんとなく、つかめたような気にもなる。


「このうえない救世に触れることではじめて転生は果たされる」


 求めた覚えもなかったが、片桐さんは解説をやめなかった。


 ただその中にあった救世という言葉は和尚と結びついたような気がした。


「貴様が引き起こしたのか? 浄化僧でもないのに大したものだ」


 聞きなれない言葉が聞こえたものの、この際、余計なことについて掘り下げることに面倒を感じてやめておいた。


「ほら」


 そう言うと、片桐さんは無理やり背中を押した。


 いままでゾン美さんだった少女の前にやってくる。


 前かがみのまま少女の顔を見上げようかとしたが、なんだか照れくさい気がした。


 紛らわすように振り返って、片桐さんに無言の非難を送る。


 片桐さんは親指を真上に立てて、ウィンクした。


 たとえようのない虫唾が走る。


 そうこうしていると、ほらほら、と片桐さんが催促しだした。


 仕方なく下から覗くようにして少女の顔を確かめる。


 そこにあったのは片桐さんとは比べ物にならない、いや比べてはいけないほどの美少女の容貌。


 眺めていられないほど眩しく見えた。


 目を合わせると少女は可憐に微笑む。


 思わず目を逸らして元の方を見ると、片桐さんはすでにいなかった。


 辺りを見回しても、どこにも見当たらなかった。


 そして朝の陽光に包まれた先からやってくる。


「どうもありがとう」


 不意にそう言われると、姿勢を正して、あらためて真正面に少女を迎えた。


 あいかわらず、その笑顔が眩しすぎて見ていられなかった。

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