第45話 督促

 対面するふたり。


 ゾンビと人間、いいや、ゾン美と人間。


 あらゆる二律背反を見越して、このままではいけないと思った。


 あまりにも理不尽な仕打ちじゃないかと憤った。


 ゾン美さんに向かって何か言おうとしたが、何もでてこないままに時は過ぎていく。


 片桐さんはそんなふたりの空気を壊すようにして入ってきた。


「どけ」


 魂魄斗を振り回しながら、圧倒的な威圧感で急き立てる。


 有無を言わさない強固な形相ぎょうそう


 にも関わらず、次の時には、片桐さんの前に思わず立ちふさがっていた。


 口をへの字にしたまま凄んで、断固さだけは主張する。


 退くわけにはいかなかった。


 片桐さんが片方の眉を吊り上げながら、鋭い眼光をさすようにそれを見る。


 双方からの視線が宙でぶつかり合った。


 お互いが微動だにせず睨みを利かせたままになる。


 いずれも退くわけにはいかなかった。


 やがてしびれを切らすように、片桐さんの方が視線をゾン美さんへと移らせていく。


 その瞬間に押さえこんでいた衝動が解き放たれた。


 今しかないと思った。


 すかさず片桐さんが手にしていたそれを奪い取り、ベランダから真下へ放り投げる。


 落下していく魂魄斗こんぱくと


 見送りながらも、沸々とたぎっていた衝動の余韻はなおもその行動をやみくもに礼賛していた。


「き、貴様、何を……」


 片桐さんが翼をあらわにして、羽ばたかせると、急降下して後を追っていく。


 振り返った先にすぐさまゾン美さんを見つけてから言った。


「時間がない、ここからすぐに……」

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