第43話 刻限
ゾン美さんが話してくれていた和尚との話もとうとう終わりに差し掛かっていた。
ふたりの生活がひと月ほど続いたとき、突如、和尚が吐血して倒れる。
どうすることもできない不治の病だった。
見舞いにくるものは誰ひとりおらず、終いに和尚は、廃れた寺の傷んだ床のうえで往生したらしい。
ゾン美さんは亡骸を置き去りに、寺を後にして、ここいらにやってきたのだと言った。
「えっと、そのまま残してきて、……よかったの?」
「ええ、よかったのです」
「和尚さんのことを思うと、……何ともいえない気持ちが……」
「人は死にます」
あらゆる世迷い言をスッパリと断つ勢いでゾン美さんは言っ切った。
そうだけど、と続けようとするが、決して崩さなかったその姿勢に圧倒される。
何も言えなくなった。
ゾン美さんはそのままで何かを見据えていた。
とても遠くにある気がした。
何をみていたのか、推し量ることすらできなかった。
「ゾン美さんは……、あなたは……、和尚のことを……」
そのさきもうまく続かなかった。
続けてはいけないような気もした。
「とくに、何とも思っていませんよ」
ゾン美さんはニコッと笑う。
強がってるようにも見えなかった。
時計の針がいつの間にか六時を回ろうとしていた。
コンコン。
窓を叩く音が聞こえる。
開けると、片桐さんが壁に寄りかかっていた。
「……もうすぐ、時間だ」
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