第40話 羇旅

「ゾン美さんはいつ誕生したの?」


 いくら女だとは言え、ゾンビに年齢を聞くことは別にエチケット違反にならないだろう。


「私は丁度、リーマンショックのときに姿を……」


 いつだ? だいたい、十年くらい前か?


 というよりも、リーマンショックって……もしかするとそのときの怨嗟えんさみたいなものが生みだしたのだろうか。


 何はともあれ、自分より一回りくらい若かったことに戸惑った。


「それじゃ、どこで?」


 西日暮里という地名が出てくる。


「それは、どこなの?」


 東京都荒川区の町名らしい。


「それで、どんな生涯を?」


 そこからゾン美さんの過去がどんどん明らかになっていった――。


 廃ビルの片隅でがれきに埋もれながら生まれ出で、そこにいるむしを口にしながらはじめ暮らしていたらしい。


 やがて周囲の喧騒けんそうに耐えられなくなり、日本各地を旅しだす。


 当初の目的は不明だったが、路銀を稼ぐため、ときにビールの売り子となり、ときにビラ配りのバイトに勤しんだと言った。


 そのさい、多くの人が怪訝けげんそうに眺め、あるときからひどい対人恐怖症になって、オカルト専門風俗に身を落とす寸前まで追い込まれたようだが、「ホンモノはちょっと……」という店長の一言でなんとか思い直したようだ。


 正直、聞かなきゃよかったということがほとんどだったが、そのなかでも水蓮すいれん和尚とのはなしだけは神妙な面持ちで聞くことになった。

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