第39話 素性

 いくら促してもゾン美さんが気持ちをあらわにすることはなかった。


 時間は迫っていたものの、遠まわしに聞いていくほうが何かとよいようにも思えた。


 実際のところ、ゾン美さんとまともな会話をしていないことに、今更ながら気がつく。


 さっそく素朴な疑問をぶつけるところから始めてみた。


「ところで、ゾン美さんはむかし、どんな人だったの?」


「むかし?」


 ゾン美さんがようやく別のものに意識をとられたような表情で聞き返す。


「そう、ゾンビになる前」


「わたくしはずっとゾン美なのですが……」


「どういうこと? ゾンビってしんでから、そうなるものじゃないの?」


「いいえ、ゾン美はゾン美としてこの世に具現化しました」


 気になる言葉はさしおいて話を続ける。


「じゃあ、どうやってゾンビは生まれてくるんだよ?」


「我々ゾン美は、あらゆる生き物の思念体が絡まり合うことで真空の対称性を強制的に破り……」


 長いこと続いたが、……さっぱりわからなかった。


「とりあえず、生き物が生みの親みたいなものなの?」


「そうですね、そう考えていただいても差し支えはないのかもしれません」


 はなのあながひとーつ、とかやっていたあれは一体何だったんだ。


 高尚すぎて低俗なのか?


 低俗というのがそもそも高尚なのか?


 片手を添えるようにして頭を抱えた。


 抱えたところで状況が変わるわけでもなかった。

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