第36話 陰影

 片桐さんが去ってから一息つくと、ゾン美さんから詳細について一通りの説明を受けた。


 どうやら、朝日が昇るそのときまで浄化の制裁を延ばす、という約束がいつのまにやら交わされていたようだ。


 詳しい説明のなか、あのやりとりの中でどうしてそれがわからなかったのでしょう、といったゾン美さんの表情を見つけると当惑したまま固まった。


 昔、友人の馬場くんが言ってくれた「おまえって空気とか雰囲気とか何か状況を読み取る能力すごいよな」を思い出していた。


 うん、それに関しては多少の自負もあったりしたよ。


 でも、やっぱ自分なんてまだまだっすわ、実際。


 だけれど、馬場くんありがとう。


 そうしてまた自分のなかで恥じることがひとつ増えたような気がした。


 それでも、さすがに無理だろ、心の中の馬場くんはそう言ってくれたような気もした。


 人様には到底理解されないそんなやりとりをなおも馬場くんと続けていると、ゾン美さんがため息をつきながら言う。


「……浄化」


 途端にハッとなった。


 あらためて言われてみると、そういうことになる。


 浄化という言葉が意味するもの。


 これまで真剣にとらえる暇もないまま、流されるようにここまでやってきていたが、ゾン美さんにとってそれは深刻どころか存在そのものに関わるはずだった。


 浄化そのものを逃れるわけにはいかない先の説明を反芻はんすうしながら、それが表しているものがじんわりと全身にのしかかってくるようになる。


「……浄化」


 ゾン美さんがもう一度それを口にしたときに見せたうつむく姿は真正面から胸をしめつける。


 それまでの一切が本影ほんえいの向こう側に閉ざされていくような感覚だった。

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