第35話 誓約

「フッ、負けたよ」


 そう言うと片桐さんは大空を仰ぐようにして清々しい顔をつくった。


「あなたもなかなかの腕でしたわ」


 ゾン美さんが労をねぎらう。


 それからふたりは見つめ合い、そしてお互いを賛美するように笑い合った。


 完全なるまでに、二人が作り上げていた、ポンコツ世界。


 ほころびだらけのところまで、進んで取りいれているようだった。


 ひと段落すると、片桐さんは表情を改めてからこれまでにない声調でゾン美さんに向けて言った。


「約束だったな」


 唐突なイミフの訪れ。


「ええ、そうですね」


 ゾン美さんが当然のごとくそれに応じた。


 屹立きつりつとした不可解さをたずさえ、りんとするふたり。


 前門の虎と肛門にも狼、なんだかそんな言葉遊びを浮かべないとやっていられない状況だった。


 それでもたたみかけるようにしてふたりのコンボはまだやってくる。


「リミットは日の出までだ」


「もちろん、わかってます。こちらもそれ以上のわがままは申しません」


 途方に暮れていると、片桐さんがこっちを見てからフッと鼻で笑った。


「おじゃまむしは一時退散しておくか」


 そう言うと、入ってきたところから室外に出ていき、翼を広げてから飛び去っていった。


 考えるということ自体を放棄したくなったまま、その姿を見送る……


 あのー、何もわかってないんですけどー、聞き逃しましたかね、何か?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る