第33話 群像

 ――!?


 突然、片桐さんの顔つきが変わる。


 カッと目を見開いた後に視線を落とした先は、ゾン美さんの股間だった。


 そこにはゾン美さんの顔があった。


「くっ、こっちはダミーか」


 片桐さんが言い終わると、親指が挿されていた眼窩がんかが、いや、顔全体が崩れ落ちる。


 股間にあったゾン美さんの顔が片桐さんが見せたその屈辱の表情を見つけると、これ以上ないほど不気味な笑みをこぼしながら言った。


「お受けなさい、我が憤怒ふんぬの一撃を」


 ゴゴゴゴゴゴッ。


 背景には怨念のような模様がかかり始める。


 暗雲がその場を支配しきってからゾン美さんがついにくり出した。


「はあーーーっ!!」


 ゾン美さんが片桐さんのももをつねる。


「えいっ!」


 つねったままの指を巻き込むように回転させる。


「やっ」


 最後につねった指で肉をちぎるようにして離す。


「ふっ」


 おわりに勝ち誇ったように口角を上げた。


 そのまま片桐さんはつねられた方の反対側で片膝をつく。


 受けたもう片方を小脇に抱えるようにして守りに入っていた。


 教室の後ろで休み時間にやってる茶番劇もここまでくればいいんだろうなあ、と割合まじめに思った。


「痛い」


 えっと……これは効いてる方向性……なのかな、そうですよね、片桐パイセン?


「ノリとかそんなん関係なく、地味にいてぇわ、これ」


 素の表情でつねられた箇所をフーフーしだす片桐さん。


 ゾン美さんは股間に堂々と顔を浮かべながら、大胆不敵に笑っていた。


 なんだろう、これ? 既視感と離人感の狭間に落ち込んだような感覚、むず痒くもあった。


「ふぅー」


 片桐さんが静かに立ち上がってから、やがて言う。


「さて、お遊びはここまでにしようか」


 そーですね、とみんなで一緒に口を揃えたくもあった。


「そのようですわね」


 ありのままに異形だったゾン美さんも今度こそ、何やらやる気らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る