第30話 再認

「とりあえず落ち着きましたかね? お二方とも」


 片桐さんはふてくされながらも頷き、ゾン美さんはおしとやかにフフッと笑いながら首肯する。


 いつの間にかとれた首は元通りになっていた。


 素人の目から見ても、第一ラウンドはゾン美さん優勢に映る。


 そして、こういう場面では、たいてい、不利な状況にあったほうが先に声をあげる。


「まあ、私は何も気にすることないし、こういうのって嫉妬みたいなもんだよね、一種の」


 言っている内容は意味不明だったが、突発的な片桐さんの強がりに思わず見ていられなくなる。


「わたくしは素直に申しただけですので」


 ゾン美さんの率直さは不必要に場を荒らした。


「ああ? いまなんつった?」


「特に何も……言葉通りの意味です」


「……ふーん、そんなに私の肌がうらやましいんだ? あんた、腐ってるもんね。あー、このくっさい塊、どっかに消えてくんないかなあ」


 いや、あなたの肌も相当カサカサだし、それに浄化しにきたのあなたでしょ?……と思うのも束の間。


「そのように長いこと話しておられると、においが口からも漏れてしまいますよ?」


「てめえ、いまなんつった?」


「……加齢臭」


 もはや片桐さんに対する呪文スペルのようになっていた。


 挑発バフなのか削弱デバフなのかは判然としなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る