第29話 迸発

「あのー、なにか変わった匂いがしませんか? わたくしの勘違いならばよろしいのですけど」


 今度はゾン美さんがこちらに何かの助力を仰ぐように聞いてきた。


 匂いって、あなた……ん? 何かが始まった気がした。


「これは高齢の方が醸し出す香りによく似ていますよ、ね」


 え? なんなの、その語尾は……知りませんよ、こっちは。


 でも、しますね。確かに匂いますね、片桐さんからはそれっぽい香りが(小濱顔)。


 片桐さんがゾン美さんを流し目で見ると、仰ぐように、その目線を天井の方へたどっていった。


 そして、ゾン美さんは追い打ちをかけるようにつぶやく。


「よい歳なさって、ご自分を美少女などと……片腹痛いこと、この上なしですわ」


 瞬間、片桐さんの歯ぎしりが聞こえた。


 ゾン美さんが勝ち誇ったような、フフフ、でさらに追撃する。


 これが、天使とゾンビの戦いというものなのか? 


 陰湿極まりなかった。


 見ると、片桐さんはまぎれもなく震えている。


 それは火山が噴火する前兆によく似ていた。


 次第にワナワナがブルブルに変っていく。


 そしてブルブルがグルングルンに……最終的にたとえようのない痙攣にまで至った。


 そこにゾン美さんの極めて短く内側からえぐるような一撃がくり出される。


「……あ、加齢臭」


 直に耳元へささやきにいった。


「ぶっころしゃあああら」


 ついに火山は活動を始める。


 片桐さんはその場から飛ぶような勢いで立ち上がった。


 ゾン美さんの首をつかんで、クルミを素手で潰す勢いでこめかみに血管を浮かばせる。


 ……コロン。


 ゾン美さんの首がとれる。


 もう見慣れたこの光景、首の付け根から噴水のように漏れ出す緑色がやはり秀逸だった。

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