第28話 奇縁

 片桐さんは――もうこの名で通すことをこの際に断っておく――やはりゾン美さんを浄化させるためにやってきたらしい。


 ぱっと見の様子だとそんな事情があるようには、とても思えない。


 ゾン美さんは片桐さんと並んで、ふたり正座している。


 仲の良い雰囲気だとは言えないが、いがみ合っているようにも見えない。


 片桐さんは出されたお茶をいただいていたし、ゾン美さんはまだ自分のはらわたで遊んでいた。


「あのぉ、いいんですかね?」


「はい? なにがです?」


 片桐さんは目を見開いてから聞き返す。


 生協で商品の場所を尋ねたときに見せるあの片桐さんの表情とそっくりだった。


「ふたりの間にはあるんですよね? 何か、その、因縁的なやつが……」


「ええ、ありますよ」


 いつものように、あちらの戸棚のほうですね、と続くような気もした。


「いや、普通に座ってますよね、並んで……ふたり」


「はい、座ってますね」


 それ以上、何を言うことが正解なのかよくわからなかった。


 ……天使が通る雰囲気のなか、突然、鼻をつまみながら片桐さんは芝居がかって言った。


「それにしても、ここは臭いますね」


 その瞬間に見る、ゾン美さんが片桐さんのほうに鋭い視線を送ったのを。


「この臭い何なんでしょうね、ほんと」


 ゾン美さんは片方の口角だけを上げて、引きつるようにしていた。


 気のせいか、少し震えているような気もした。


 そこで、片桐さんは聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソッとつぶやく。


「……くっせーんだけど、まじで……」


 終わりに舌打ち。


 あれ? 片桐さんの素ってそんな感じだったんですか?


 生協でいつも面倒なタイトルの本について尋ねるとき、いつもそんな感じなんですか、実際は?


 だとしたら、何かすいません。


 誰に謝っているかもよくわからなかった。

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