第26話 懸隔

 目の前には、全身がほぼピンク一色、フリルのふりふりで着飾った姿があった。


「えっと、とりあえず、何から聞けばいいんですかね?」


 ほとんど投げやり状態で尋ねた。


 順序だてて事情を聞いていく姿勢はもはやなかった。


「うーん、そうですね……。まず私は、ドッキンミラクル、小さ……」


 ――バンッ。


 途中で、これ以上ないほど強く台を叩いて制止させる。


 片桐さんのような人は小さくすくんでいた。


 それでも、おーこわいこわい、といった表情のなかにはどこか人を小馬鹿にした何かが含まれていた。


 取り直して、ここにきた目的をはっきりさせようとする。


「それじゃ、天使の、リンさん? あなたはどうして……」


「あ、ちょっと待って……」


 突然の中断がはさまれる。


 あーこいつもかよ。


 うぜえ、果てしなくうぜえ。


 どうせ、『天使ではありません、超絶美少女天使です』だとか、『リンではありません、リンりんです』とか言い出すんだろ。


 わかってんだよ、こっちは。


 七代前からたたられるようにしてわかってんだよ、何もかも――。


「鼻毛がでてます」


「え!? ……あっ」


 目をやると、ゾン美さんが光の速さで目をそらしてから吹き出す。


 見下して見下されて、世の常とはいえ、これほどやり場のない思いを味わうと人はすっかり従順になる。


 平凡な羞恥心ごときに、ここまで胸をえぐられるとは思ってもみなかった。

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