第24話 自恣

 窓枠に右手をかけたまま室内の様子をのぞいてみた。


 そこにはゾン美さんともうひとつの姿があった。


 一体全体なにが……、それを確かめようとすると、こちらに正面を向いて、……なにかが始まった。


「はい、ドッキンミラクル! 小さいお友達からぁ~大きいお友達までぇ~、老若男女、みんなのアイドル、超絶美少女天使エン・ゲルリンりん☆ 今まさに降臨!! ぷんぽこ♪ ぷんぽこ♪」


 ――左手は添えるだけにしてそっと窓を閉めた。


 窓を背にしてぼんやり外の景色を眺める。


 なんだか、大学生協のおばさん店員にそっくりだったなあ。


 犬の鳴き声が遠くに聞こえた。


「……はぃ、……ドッキンミラク……」


 窓ガラスの向こう側では同じ自己紹介フレーズがまたくり返されているみたいだった。


 どこか遠く、異国の星空の下にいるような気がした。


 それにしても、生協書籍部の片桐さんにそっくりだったなあ。


 狼の遠吠えがどこかで聞こえた。


「……んぽこ、ぷん……」


 今日は風がやむことなく吹いている。


 そういえば、片桐さん、最近熟年離婚したって耳にしたなあ。


 もう何も聞こえなかった。


 味わったはずのない郷愁の風が不思議なくらい身にしみた。

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