第23話 開闢

「あ、はっきり見えますよ。おめめが、ただいま、いたしました」


「あ、そう、よかったね」


 呆れた調子でいちおう返す。


 というか、踏みつぶしたふたつは何だったの?


 すでにひとつは元通りになってたよね?


 それにすっぽりはまって、すぐ見えるようになるって、どんな構造してるわけ?


 やがて考えるのをやめた。


 馬鹿らしかった。


 何もかもが馬鹿らしかった。


 気分直しに風にでも当たろうかと考えた。


 時計の針はすでに丑三つ時を示していた。


 近所に臭気を漏らすのをためらって閉めっぱなしにしていた窓に手をかける。


 ゾン美さんのとっさの声。


「嗚呼、いけません。いまの時間帯は……」


 忠告はもはや意味をなさなかった。


 ――不浄なるものへの裁きが、いまここに、幕を開ける。


 窓を開けると、遠くの方にわずかな光の点が見えた。


 目を細めて、改めるように見る。


 するとそれは、瞬く間に膨れ上がっていき、あっという間に近くへやってきていた。


 あまりにも一瞬の出来事に固まる。


 言葉は、当然、でない。


 何も考えられないまま、ただ目の前にある未知に圧倒される格好になる。


 光の塊がベランダ先に浮かんでいる。


 物事のつながりすら整理できないまま、茫然ぼうぜんとしてそれを迎えていた。

 

 やがて光はパウダーのように辺りにこぼれだし、それが下からの突風で粉塵のように舞い上がった。


 ひとつの形態が徐々に形成されていく。


 人型を成したように見えた瞬間、それは室内へ、窓のカーテンをくぐっていった。

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