第21話 乱麻

 生唾を飲みながら、あらためて乳房をみる。


 ぷっくりとした膨らみが胸の付け根からの他にふたつの先端にもあった。


 よくよく眺めてみると、途切れのない曲線がとても滑らかに描かれている。


 いたるところが丸みを帯びていた。


 表面にある妙なヌメリのせいもあるのだろうか。


 ふーむ、と無心で見とれる。


 そうしていると、ゾン美さんが寝返りを打った。


「うーん」


 ゴロゴロ寝ころんで少し離れたかと思うと、折り返してまたこちらに向かってくる。


 意図せずして、顔の正面が近くにやってきた。


 両目をつむったその寝顔は率直に臭くて、正直に可愛いかった。


 怖いもの見たさ、いや複雑さゆえの衝動というべきか、違和感を感じながらも気持ちが高まっていくのを感じる。


 ……いっそこのまま、……人の道から外れてみるのも……ありかもしれない。


 そっと唇を近づけてみる。


 すでに臭いを感じないほど、高揚していた。


 ゾン美、さん……。


 そのとき瞼が開いた。


 瞳孔の代わりにあったのは、二匹の魚だった。


 魚が黒い川のなかに揺れていた。


 それぞれが踊るように泳ぎ回る。


 時おり、跳ねてしぶきを散らしているように見えた。


 魚たちはやがて飛び出して、互いのウロコを激しく擦り合わせた。


 そこには命の営みと戯れが同居していた。

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