第20話 葛藤

 添い寝しているのを一度確認した後、もう振り返ることはなかった。


 もう何も見ない……何も見えないように意識を集中させた。


 それでも背中越しにゾン美さんが発している臭いを感じつづける。


 そこには臭気と同じくらい不穏な空気が漂っているはずだった。


 ところが目をつむると浮かんでくるのはゾン美さんの笑顔。


 臭いはずなのになぜだか顔をしかめることができない。


 理由を知りたかった。


 いじらしさがあるからだろうか?


 現実から逸脱しているからだろうか?


 ひととおり考えてみても、さっぱりわからなかった。


 かたやゾン美さんは悠々自適。


「うーん、むにゃむにゃ」


 え、もう寝てるの?


 嘘でしょ?


 ゾンビって寝つきがこんなにいいものなの?


 それに、むにゃむにゃ、って実際ないよね?


 ぎゃふん、と同じくらいないよね?


 ゾン美さんが寝返りをうつと、背中にぴったりとくっついてきた。


 不覚にも胸の鼓動がちょっとだけ高まる。


 やわらかな奥ゆきを感じさせる突起物が、脇腹あたりに当たっていた。


 こ、これは。


 ま、まさか。


 そ、そんな。




 …………乳首であった。


 ――え、そこは、はらわたでよくね?


 ぎゃふん、ひとりごとは空しく宙に霧散むさんした。

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