第10話 焦燥

 腐ることなく無事に済んだ。


 雑巾で顔を拭うのには気が引けたが、背に腹は代えられない。


 それでも拭った先から雑巾が腐食していくのにギョッとなった。


 え、どういうこと?


 人体には影響がないのか?


 でもさっきの腐り方より多少、マイルド?


 次々と湧き上がる疑心。


 何はともあれ、とりあえず、手と顔が、臭い。


 ゾン美さんはのほほんとしている。


 現象を司る支配者。


 老獪チート手強チートすぎた。


「さて、そろそろお食事の支度にでも取り掛かりましょうか」


 そう言うと、ゾン美さんは立ち上がりキッチンへ向かっていった。


 何も言えないまま、後を追うようについていった。


 冷蔵庫を物色しだすゾン美さん。


 そしてため息ひとつ。


 納豆、アンド、卵であいかわらずの貧相さ。


 まあ、そこはしょうがない……そんなことよりも手にかけた取っ手の部分が気になって仕方なかった。


 すかさず点検。


 異常なし。


 安心してゾン美さんの表情を伺うと、何やら考えごとをしている。


 折よくピカリと電球。


「やはり日本人と言えばお味噌汁ですよね」


 わけもわからず、棒立ちになった。


「ほら、お座りになってお待ちください」


 勢いのままリビングで待つハメになった。


 調理器具が腐っていかないか心配でたまらない。


 このままでは、キッチンもじきに腐海に沈む。


 居ても立っても居られなかった。

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