第6話 抑揚
少女は座ってくつろいだ。
お尻の下にはダンボールの座布団が――保険のために――敷かれている。
はらわたは依然として、こんちゃーす、をしたままだ。
「うわぁー! とっても素敵なお部屋ですね」
目を輝かせながら、あたりを見まわし、社交辞令をかぶせてくる。
ファーストコンタクトといい、ここといい、コイツ、礼儀ってやつを心得てやがる。
催促されたはずのないお茶を黙って差し出す。
少女は、ストローを取り出し、挿すと、勢いよく吸いこんだ。
チューチューチュウ。
なんて幸せそうに飲みやがる。
ふと横を見ると、包装紙の残骸が見るも無惨に腐っていた。
「えっ、ちょっつとぉー」
上げてから下げられるこの思いは漂う臭気よりも胸をえぐった。
包装紙を片付けて戻ってくると、少女は舌をペロっと出した。
あざとく映ったのも束の間、さっそく横柄に本題へ入る。
「名前は?」
「ゾンびです」
――まんまじゃないか。
人に名前を聞いて、人間です、と返された気がした。
「それじゃ、ゾンビさん……」
「違います」
「はい?」
意図がつかめなかった。
「わたくしはゾンビではありません、――『ゾン美』です」
傍にあったメモパッドに記してから強調するように添えた。
こだわりだけは伝わってきたが、やはり、しぬほどどうでもよかった。
使われたボールペンは、当然のごとく、すでに腐っている。
もう慣れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます